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月下に舞うは黄金の鎌 He who hesitates is lost.#2

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁっ! クソッ、しつけえッ!」

 少年は己が置かれた現状に対し、悪態を吐いた。

 その瞬間も少年はスマホを右耳に当てながら、大樹の根っこを蹴り上げ、着地の瞬間猫のように衝撃を吸収し、忍者のような体勢(フォーム)で疾走していた。

 身長は170センチメートルあるかないかと言ったところであり、それは同年代の平均を僅かに下回っていた。しかし、彼はそんなものを引いて余りあるほどの跳躍力と瞬発力を備えていることは、先の事より容易く予見出来るだろう。

 少年の特徴は流麗な碧色をした双眸に、癖っ毛のある金の髪、中性的な顔立ち、そして何処か物憂げなオーラが身体中から滲み出ていると言ったところだろう。

『頑張っているとこ悪いけど、………爽太(そうた)、残りの枚数から鑑みても、アレ(・・)をあと2回食らったら死ぬわよ?」

 スマホから聞こえてくる淡々とした声は、受話器の向こう側の世界がどうなっていようと全く関係無いような調子で、爽太と呼ばれた少年に語り掛ける。

「ああ、分かってるッ! つかそれより、次は何処に行きゃ良いっ!?」

「そう、ね……………、」

 向こう側に暫しの間静寂が訪れる。爽太は返事を待ちながらも、その足を止めようとはしなかった。

「北よ」

 その声には何の迷いもなかった。

「『魔法使い』はこの地域が魔力詰まりを起こさないよう、何処かで見張っているはずよ。そう、ね…恐らく魔力の流れを風水術、それも陽宅風水(ようたくふうすい)を使ってコントロールしているから、ここまで規模が大きいんだと思う。ま、これが合ってたとしたら、東西南北の何処に必ず氣の流れが激しい地点があるはず。『魔法使い』はそこを利用して基点を刻みこんでる」

 少年はスマホから延々と流れ出てくる情報を咀嚼していた。

「………何処か、って曖昧過ぎるし、良く分からない単語もあるけど、つまりは東西南北を隈無く探せってことかっ!?」

「ええ、そう言うことよ」

 声は不機嫌な調子で返って来る。

 少年はそれを無視し、一瞬立ち止まった。その瞬間――


 突然、足場の大樹と根が変形し、無限地獄のようにがっぽりと大きな穴が出現した。


「! 来たかッ!」

 少年はそれが来ることなぞ予見していたかのように、穴から5メートルほど退きそれを難なく避わす。

「もう、案外タフですねーっ。早く蔡儀聖鎌(ライト・シックル)の錆びに成って下さいよーっ」

 少年の上方から少し間延びした声が聞こえてくる。

 瞬間、少年は天を仰ぎ、ソレ(・・)を睨み付けた。

「うるせえ、贋作(フェイク)! お前に使ってる時間は無いッ!」

「はぁ、案外、救いの無い人ですねーっ。ふふふ…」

 ソレは黄金に光輝く鎌を携え、不気味な笑みを浮かべていた――



▼▽▼▽▼▽▼▽



「ん? ………あぁ」

 冷たい風が頬を撲り、意識が深層から引き起こされる。

 そして、俺は朝も寄ったあの小さな公園のブランコで目を覚ました。

「……………?」

 何かおかしな感じがして辺りを見回すが、これと言った異常は感じられなかった。あれは………? 一体? ………どうやら見知らぬ夢を、見ていたようだ…。

「ふわぁ〜、えっと時間は…っと」

 家を出た後、朝日の機嫌が直るまで公園でうたた寝をするつもりが、最近疲れが溜まっていたらしく普通に寝てしまったようだ。 こんなとこで寝たら風邪引くかもな、などと過ぎたことに思いを馳せながら、欠伸を吐く。そして、時間を確認するためにスマホを手に取り、目を剥いた――

「うわっ! もうこんな時間かよっ!?」

 スマホの液晶画面(ディスプレイ)には P.M. 22:14 と表示されていた。

 ここで普通の高校生は21時を越えると補導され、保護者に連絡がいくのだ。まぁ、通常はその後に保護者も交えて『楽しいお話合い』をすることになっている。しかし、だ。ここは若者の都市、東京である。

 すぐさま手の届くような範囲に保護者など、当然いるはずもない。だから少しだけならば、羽目を外すことも可能なのであり、22時などまだまだ序の口なのだ。

 ならば俺は何を恐れているかと言われれば、そりゃ妹達である。こんな時間まで無断で外出したのだ。許して貰えるはずもないだろう。

 まぁ、今回も俺が悪いのだろう。勝手に嫉妬させてしまうわ、妹置いて逃げるわ、何時まで立っても帰って来ない、そんなところだろう。

「憂鬱だが、早く帰ってやらないとな…」

 俺はそう思う。

 妹達にこれ以上迷惑掛けて心配させてしまったら、兄貴失敗にもなるだろうし、早く帰って安心させてやりたいと思う。

「…………………そう言えば、メー、ルが届い、ている…」

 とりあえずメールくらい返信しておこう、と思いながらスマホを操作し、固まった。

「………わぁおっ! 不在着信123件 留守電28件 メール67件って一体どんな状況だっ!」

 俺はすぐさま発信者を調べて、納得する。

「………8割朝日か。うん、それなら納得、納得」

 うちの妹は嫉妬深いのだ。これくらい序の口、序の口、である。

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