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月下に舞うは黄金の鎌 He who hesitates is lost.#1

前回消えた箇所を加筆修正して投稿致しました。

「申し訳御座いません、お兄様」

 そう言って朝日は仰々しく頭を下げた。

「いやいや、俺も悪かった。驚かせて、ほんとごめん」

 俺もそれに応えるように頭を深々と下げる。

 俺と朝日が床に向かい合って座り込み、お互いに礼をしている様は、さながらお茶会を開いているようだった。

 因みに状況は、朝日がようやっと落ち着いたため、俺達は居間に行き、そこでそれぞれの落ち度を反省していると言ったところである。

「……………………それふぇ? ふぉれふぁ、どうひて、ふぉうひゃっふぁの?」

「…ごめんな、夕日。兄ちゃん、お前が何て言ってるか理解できない…」

 夕日がソファに体を沈めながら何かを問うたが、何分俺には冥王星辺りの言語を理解することは出来ない。

 それにそもそも、プリンの他パンケーキまではしたなく頬張っている奴の発する咆哮を聞き取るスキルなど俺は持ってないぞ。

「むぐぅーっ! ほがむぐがぐはぎゅうーっ!」

 わぁおっ! ますます分かんねーやっ!!

「…むぐ、もぐ。……………ゴクン。…だからぁ、どうしてあんなことなったのさぁ!」

 夕日は物凄い勢いでプリンとパンケーキを呑み込み、捲し立てる。

「あー、えっと、それは、だなぁ…」

 俺はあの能力の話のこととなると言い淀んでしまい、何とも言えない対応を取ることしか出来ない。

 それもそのはず、何故なら、あの能力は俺のトラウマになった事件を引き起こした能力なのだから。当然、俺が自分から進んで口にしたいと思う訳がないのだ。…まぁ、だからこそ色々と問題があるのだが。

「…曖昧だよーっ、にぃは、一体何が言いたいの?」

 夕日が呆れたように嘆息する。

「あの、お姉様。実は…」

 そこで、見かねた朝日が夕日に事情を説明する。



▼▽▼▽▼▽▼▽



「…うん。これはにぃが悪いねぇ」

 朝日から事情を聞いた夕日の第一声が、これだった。

「…どうして、かは敢えて聞かないで置こう…」

 俺は諦めたように呟く。

「…聞かなくても言っちゃうね。まず、女の子を泣かせたことは男として最低、畜生にも劣るゲスな行いだね。生ゴミ漁ってる烏みたい……………きゃあ! 近寄んないで、孕んじゃうっ!」

「ぐはぁ! ……何か凄く罵られてないか、俺っ!? しかも何だよ孕むって、俺そんな変態野郎に見えますかねっ!? あとそれに、第一に理由聞かなくてもいいって言ったじゃないですか!? なのになんでっ!」

「…にぃがあんな可愛い妹を辱しめたってことを知らしめるためだよ」

 夕日が低いドスの効いた声で俺に語り掛ける。

「怖っ! お前一体何処の赤ずきんだよ!」

「早く朝日に謝らないと、お前のお腹と背中をくっつく様にしてしまうぞ〜っ!」

「だからお前は何する気だっ!」

 腹と背中がくっつくって物理的に無理じゃねーか! どんなホラー映画にする気だよっ!!

「…それはそうと、お兄様」

 朝日が居住まいを正し、俺を見据えた。

「どうしたんだ、朝日? 急に改まって」

 そんな様子を見て俺は一瞬、戸惑いの表情を浮かべてから朝日の方へ体を向ける。後ろの猟奇的な奴はほっとくことにしよう…。

「はい。……………ええと、何と仰いますか…。その………、んと……、…」

「? …どうかしたのか?」

 自分から何か切り出そうとしていた朝日は、俺と目を合わせるや否や口ごもり、何故か頬を赤く染め俯いてしまった。

 思わず夕日の方へ頭だけクルッと回すが、夕日もさあっ? と言った風に肩を竦めていた。

 ? ……一体、どうしたんだ? よく分からないな。

「あ、あのお兄様?」もう一度朝日が呟く。

「うん?」と俺は返す。

「………(わたくし)を抱き締めて下さいませんか?」

「…は?」

 すると、朝日はおかしなことを言い放つ。自分を抱き締めてくれ、ねぇ。まぁ…何も兄妹(きょうだい)なんだから、そんな確認取らなくても良いんじゃないか? どうせやましいことがあるわけでもなし、と俺は一瞬考えたが、…仕方がないか。何せ俺はそれは俺の考え方だ。何も妹も同じと言う訳でもないだろう。

 それに俺は、いや俺()は……………

「本当に甘えん坊だな。朝日は…。ふぅ、じゃいくぞ」

 …思考を切り換え、俺はサイドテールが不機嫌そうに垂れている少女にそう声を掛けた。

「ひゃ、ひゃい! お願いします、お兄様」ビクリと朝日は小動物のように体を震わせ、そう応える。

「…………、」

 まるで行為を初めて行うカップルのような表情でコクコクと頷く朝日。何か変な気分になってくるな…。まぁ、変なことになっても、俺の背後御座います、爽やかポニーテールの悪魔がどうにかしてくれるから問題はないだろう。

「………よし、」

 そこで俺は一度深呼吸をし、己を落ち着ける。

 そして俺は朝日の正面から抱き締めた。つまり、俺の胸板に朝日が顔を埋めるような体制を取ったと言う訳だ。

「………ん」

 朝日の可愛らしい声が漏れる。そして、更に俺に体を寄せて来た。

 …それにしても、女の子の体は柔らかくてぷにぷにして抱き心地が良い。ずっとこうしていたい気分だ。それに、一人一人抱き心地が違っているのもまた良いな…。因みに朝日は今日抱き締めた二人と違って胸がある。だから、両腕の他に豊満な胸も堪能出来ると言う訳だ。ふむふむ、彼女はこれがあるから、彼女はそんじゃそこいらの学生と一線を画していると言っても良いんだな、これが。全く、理性が焼け焦げていく感覚すら覚える…。

 あぁ、他の二人ともが貧乳だったせいで、女性の胸にぶら下がる桃の感触を忘れていた。朝日には感謝しなきゃな。でもまて、貧乳と貧乳、このタイムラグ? があったからこそ、今ここでこうしていられるのかもしれない、……………そう考えると…、貧乳バンザーイ! 貧乳バンザーイ! 貧乳バンザーイ!

 ………………って待てーいっ! 半日前と一緒じゃないか俺! 何考えてんだっ!?

「………………………………………お兄様?」

 などとバカなことを考えていると、朝日が俺の胸の中でゆっくりと顔を上げた。

「ひっ!」

 俺はそのとき狼狽を隠しきれず、小さく悲鳴を上げてしまう。

 何故俺が狼狽したか、その理由は、朝日の目が明らかに据わっていたからだった。焦点が何処に定まっているか分からない不気味な視線をしていおり、それに加え、体の至るところから所謂負のオーラと言うやつがバンバンと出まくりだった。

 彼女の瞳は黒曜石のような鮮やかな輝きを失い、鈍く暗い光を放ち続けており、さながらブラックダイヤモンドと言ったところだった。

「あの、朝日さ、ん? どうか、なされたので、しょうか?」

 俺は震える声をどうにか抑えて、我が妹に問うた。…口調がおかしいのはご愛敬である。

「………やはり、先程のお言葉とこの臭い…。お兄様、私に黙って、う、う、うわ、浮気をっ!」

 朝日の激昂と共にサイドテールを纏めていた髪留めが外れ、髪がバサリと広がった。そして、その髪はまるで意志を持ったかの如く宙に浮かび上がった。

「……………(汗)」

 俺は朝日から手を放し、無言の内に彼女から距離を取った。俺はその瞬間、頭から流れ落ちた汗が冷たいものだったことに気付かなかった。さっきの心の声まさか、まる聞こえだったとは…。

 そんなとき、近くを浮遊していたハエの一匹が朝日の目の前を横切った。


 横切った…その瞬間だった――


 朝日を中心にゴウッと猛烈な熱風が渦巻いた。それは何か物に掴まらなければならないほど強く、テレビやテーブルは簡単に横倒しになり、またベランダのガラスに大きくヒビが走った。食器は入れてあった棚ごと引っくり返り、ソファから退避した夕日は俺にしがみついた。

「ちょっと、にぃ〜っ!?」

 夕日が俺に助けを求めて来る。

「ダメだ、俺が今行ったら確実にヤられるだろっ!!」

 俺はそんな妹の希望を軽々と踏み砕いて置いた。俺もまだまだ死にたくないからなっ!

 この現象は別に、この家特有のダイナミック乾燥機能でして、ボタン一つでサウナに変身、ゴビ砂漠にいるような気持ちが味わえましてよ、奥様? と言う訳では断じてないっ!

 烈風の奥で朝日は悶えているのか、頭を抱えてゴロゴロと転がっていた。

「! ………マズッ、い」

 ブォオオーンと言う低い唸り声のようなものが聞こえたかと思えば、何と竜巻の周辺で鋭い光の瞬きが起きた。それは正しく雷であった。

 この現象の核は朝日であり、彼女の能力が原因である。

 そして、彼女の魔術師としての異能力――それは『発火能力(パイロキネシス)』である。

 『発火能力(パイロキネシス)』――それは言わずと知れた異能力の一つであり、『発火能力者(パイロキネシスト)』とは酸素と炭素を空気中で化合することによって火炎を作り出す、と言う簡単な作業を瞬きすら(・・・・)許さない(・・・・)速度(・・)()行う(・・)魔術師のことを言う。

 そして、朝日はその一歩先を行っている。それが今俺の眼前にて荒ぶっている光の正体だ。

 気体とは一定以上熱されるとエネルギーを持つことを知っているだろうか、そう、とても強大なエネルギーを持つのだ。

 朝日は発火能力で発生させた火炎の熱エネルギーを全て、ある一点、自分で気流操作したその一点に流し込む。すると膨大なエネルギーを持った気体はプラズマへとその姿を変質させる。

 ………つまりは、だ。朝日は発火能力者でありながら、プラズマを扱うことが出来るのだ。…因みに朝日以外にこれを出来る魔術師を俺は知らない。

「………くっ、逃げるぞ夕日っ!」

 俺は夕日に俺の財布を投げ、玄関へと走る。

 朝日の機嫌が良くなるまでは家にいない方が良い――これは我が家の家訓だ。特に俺は何されるか分かったもんじゃないからな。

「あ、にぃっ! ゆーを置いてかないでってばぁー!」

 夕日の声が背中越しに聞こえるが、俺はそれを無視する。

 …って、うわっ! 危ねえ、今プラズマで壁に穴空いたぞっ!

 そうして、俺は妹達を家に残し、夜の東京、この学生の都市へ繰り出していった――



▼▽▼▽▼▽▼▽




次回、『魔法使い』が無能の夕陽ヶ丘爽太に干渉してきます。

ではお楽しみにノシ

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