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夕陽ヶ丘爽太の(非)日常 The early birds catches the worm.#4

 『魔術師』――日本の異能力開発特区にて、能力開発を受けた学生のことを云う。特筆すべきは、能力を発現させた、させないに拘わらないことだ。そのため、実際に魔術師協会に登録されている魔術師の人数と実践的な魔術師の人数は同数(イコール)ではない。

 また、魔術師の多くはその性質ゆえ、進学先は防衛大など軍関係のものが多い。彼らの中には、進学先をただ惰性で決める者も少なからずいるが、魔術師は実際にその方面では重宝される存在となっているため、自己の存在の肯定、つまり「必要とされている」という感覚が強いため、自ら進んで防衛大に進学する者もいる。



 そして、夕陽ヶ丘爽太が通う高校もそんな異能力開発特区に存在していた。


 私立『光郭学園(こうかくがくえん)


 国立、都立の高校が多い中、唯一の私立の学校である。つい2年程前に誕生した、歴史の浅い高校であり、それを補うかの如く、教育に熱を注いでいることで有名になった高校だ。

 校訓は『自主自立』、生徒自身に物事を考えさせ、社会に通ずる思考力を養わせることが目的である。

 また、生徒数は960人で、一学年に320人。クラスはAからHまでの8クラスあり、その一つ一つに高い目標を定めさせていた。


 何処にでもある進学校然とした高校――それが光郭学園だった。


 ……………だがしかし、この高校の一番の特徴は、教育に熱心だとか、志が高いとか、そんなものではない…。



▼▽▼▽▼▽▼▽



「…すみませんっ! 遅れましたっ!」

 俺は教室に入るや否や、腰を90度に折り、頭を竹刀のように高速で振り下ろした。

「…いい。頭上げて」

 教卓にちょこんと座っていた先生は、俺を見、そして、何事もなかったかのように席に座ることを促す。

「はい。有難う御座います」

 まさか、許してくれるとは。確かに、授業が始まって10分程だったけど出席簿に遅刻すら書き込まないとは。

…あぁ、寛大な先生でよかった…、などと思いつつ俺を許してくれた優しい先生を見る。

 腰まで延びる髪は宝石のように光を反射し、鮮やかな金色に輝いている。瞳は翠玉石のように透き通っており、綺麗な水面のようだ。顔はまるで緻密に計算されたかのように整っており、お人形と見紛うほどだった。

 彼女の名前は白神白花(しらかみはくか)という。年はなんと15歳である。飛び級でイギリスの大学を卒業し、日本に帰って来てから教員採用試験を受けなんと一発で合格し、そのまま教師をしているという凄い人だったりする。あと因みに、イギリス人とのハーフらしく、金髪は地毛だそうだ。

 …実のところ冗談ではなく、俺も金髪碧眼なのだが…。両親と妹達は直毛の茶髪だというのに、一家の中で何故か俺だけ癖っ毛の金髪で生まれてきた。そのため不倫したとか、取り違えられた子ではないかという疑いも掛けられた。(俺が生まれた直後)

 しかし、DNA検査の結果、俺は正真正銘親父達の子だということが判明したから、ようやくこの問題は治まった。

 結果…何でも染色体異常が原因らしい。本来正常な染色体の塩基配列の一部が異常な改竄を受け、形質が別のものに書き換わってしまったそうだ。

 別に、形質が書き換わるということは、この世にないことじゃない。例を挙げるとすれば、両親の掛け合わせでは、普通じゃ出来ない血液型になってしまった…。なんてのが知り合いにいる。

 まぁソイツは病院に行って、これまたDNA検査を受け、安心出来る結果を受け取ったから、こっちもこんな風に話してるんだけど。



 閑話休題



 それで俺は教室を歩き、そのまま席に就こうとした。しかし、椅子を引いた瞬間――

「…兄さん、構って構って」

 白神先生は俺に抱き付き、頬擦りをしてきた。

「白神先生、困ります。授業中ですよ。教師が生徒に何しているんですか? ……あと、俺は先生の兄貴じゃありませんっ!」

「…堅いこと言わないで。私と兄さんの仲。…それに硬いのは下だけって分かってる。…心配しないで」

「ねぇ!? なんの心配!? 一体何の心配なの!??」

「…それは勿論、夜の。兄さんがEDじゃ私も満足できない」

「意味わかんねぇお! …誰か教育委員会呼んでこいっ! セクハラでブタ箱にぶちこんでやる!」

「…教育委員会も、このことは目を瞑ってる。…結構渡したから」

 社会腐ってんな! 賄賂受け取んなよっ!

「まぁまぁ、爽太っち」

 不意に肩を叩かれ、後ろを振り向くと身長180センチを悠に超えた奇人がいた。

「硬いのは下だけにして、さっさと席に就くっス。これじゃあ皆、集中出来ないっスよ。………あ、あと因みに俺はいつでもビンビンっスよ!」

「最初と最後の要らねえだろっ! 要点だけ説明できねぇのかお前はっ!」

 俺にニッという気味の悪い笑みを見せているコイツの名は、鬼怒川臣士(きぬがわしんじ)という。

 『っス』と独特な口調に、赤の布地に黒で、ドクロの刺繍が施された趣味の悪いバンダナを頭に着けているのが特徴的な奴だ。…黙っていれば、それなりの容姿なのだが、何分変態である。…女難の相など一生出ねーだろ。

「…そこはかとなくバカにされた気がするのは、俺っちだけっスか?」

「…で、今何の時間だ?」

 臣士の戯れ言を無視し、此方から質問してやる。

「おっふぅ…、華麗なスルーっスね。ふむ、今の時間は『探求』の『未来視』の時間っス」

「未来視か…。って、なら騒ぐの関係ないだろっ!」

 能力開発には何個か種類があり、この『探求』という授業は、自分が一体どんな能力に秀でているかを調べるための授業である。

 その内の一つである『未来視』は近い内に起こるであろう出来事を見透すという能力である。『予知』と違う点は、『予知』が未来に起きることを一つ確実に知覚出来ることに対し、『未来視』は未来という曖昧なものを揺れ動く水面のように捉えることで、情報を多角的に類推し、将来起こるであろう状況を複数想定する点である。

 詰まるところは、『予知』の劣化版であり、本当に未来を見ている訳じゃない。けど、そもそも予知能力を持っている魔術師なんて、珍獣もいいところで果たしてこの世にいるかどうかという程珍しい存在なのだ。もし、本当に『予知』を持っている魔術師がいたら、それこそ戦争が起きてしまう程に…。


 そして、『未来視』は第六感というものまで使っているらしく、それだけで立派な能力だ。まぁ、それで、『未来視』が発動するかどうか測るための授業が今行われている。

 手段は結構簡単で、耳にヘッドフォンをし、更に目隠しをしたら準備完了だ。

 ヘッドフォンからはクラシックのようなゆったりとした感じの曲が流れていて、心を落ち着かせてくれる。そして、頃合いを見て、誰かがピコピコハンマーで検査者の頭部を叩く。

 もし、未来視が発動したのなら何回か試行することで避けれるだろう。また、嘘っぱちで避わしたとしても試行の度、何時の方向、誰が叩いたなどを記入しなければならないため、余程のことがない限り虚偽はないだろう。

 あと、周りの音が聞こえたなどということもまぁ、ないと思う。ヘッドフォンには抜かりなく騒音削除(ノイズ・キャンセラー)が施されており、高架下でも同様の実験が出来る位だから。

「…兄さんはしないの?」

 先ほどまで五月蝿かった白神先生が、俺を強く抱き締めながら聞いてくる。

「分かってますよ、やりますよ、白神先生。実技で点数稼がなきゃ単位取れないんですから」

 手をほどき、自分の席に腰を下ろす。

「…白花って呼んでくれないの?」

「白花っち…。呼んだんっスよ」

 俺の後ろの席から面倒な奴が声を上げる。

「…あなたじゃない。平常点下げようか?」

 おいっ! 教師、権力振りかざすなっ!

「ふむ、平常点下げられて赤点で補習…。そのまま白花っちとの個人レッスン、生徒と教師の禁じられた関係に…ってのもいいかもっスね」

 そして、そこでめげないのかよっ!? 臣士っ!

「…兄さん。白花って呼んでくれないと、平常点下げて個人レッスンして既成事実作って脅すかも。…兄さんに犯されたって双子ちゃんにも伝えておく」

「ひっ! それだけは止めてくれっ! 白花白花白花白花白花白花白花白花白花白花、あー愛してるぞ白花|(棒読み)」

「……っ!」

「…あれ?」

 白花は俺が十回+一回愛の告白をしてやると、その場バタリと倒れ込んでしまう。急いで抱き起こすと…。

「…兄さん。今天国にいるみたい…。兄さんに名前呼ばれて、抱かれてる…」

 バカなことをのたまっていた。

「…お前、鼻血出てるぞ。あと、『抱かれてる』のイントネーションがおかしい」

「爽太っち。俺っち、男の娘も守備範囲に入ってるっスよ」

「お前本っ当に、黙っててくれ…」


 はぁ、どうやら、この光郭学園にもおかしな奴しかいないみたいだ…



▼▽▼▽▼▽▼▽




さぁ、次回も頑張って行くっスよ。

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