6.南への街道
「ちょっと、もう無理もう無理ー!」
「目が回るー目がー!目がー!」
ラーチェルは肩に背負われた状態で滅びの呪文を食らったような言葉を吐いていた。
南の道を歩いて町に向かう道があまりにも平坦だったのが原因である。
「こんなに先が見やすい道なら瞬間移動使ったほうが早くないか?」
と言ってラーチェルを肩に持ち上げた。
自分のSTRなら簡単に背負えるだろうと思ったんだがやはり問題なかった。
持ち上げた後に軽く尻を撫でたら
「ちょっと、ここで始めないでね。まだうち慣れてないんだから。町に着くまで絶対だめ。」
と言われてしまった。
それで瞬間移動でポンポン飛んでいたんだが、担いでいたラーチェルが目を回してギブアップ宣言をしていた。
この調子なら余裕で昼前につくと思っていたんだが、残念である。
つい昨日まで我が愛槍草刈丸が大活躍だったような場所を進んでいたので楽しかったんだが。
残念。
ラーチェルが回復するまでちょっと休憩する事にした。
ラーチェルにこの世界のことを聞いた。
この中央の大陸は西側1/3をオルディス帝国が占領しているが、元々は100年くらい前に北西大陸を統一後、中央大陸に攻め込んできたそうだ。
そして中央を2/3くらい占領した頃に北東のドワーフの国と南東のエルフの国のテルミス神聖国と東のテュポン連合国家が手を組んで反撃して押し返し、中央には新国家としてその時前線のまとめ役を勤めていた勇者が王となって国を建てたそうだ。
その国が今いるデュガル国。
やっぱり勇者は前線送りか・・・
その後、北西大陸のオルディス帝国と中央大陸に渡ったオルディス帝国とで内戦が始まり今に至ると。
しかしエルフが神聖国を名乗るのか、この世界は。
神聖と言われてるのは南東の大陸は魔族の大陸でここからの侵略を防いでいるかららしい。
北東の大陸は南側1/3を龍族が、残り2/3には人族と獣人が住んでおり特に戦争もなく暮らしている。
獣人は中央大陸でも見るが、龍族はほとんど出てこないので見た事がないとラーチェルが言っていた。
なお、デュガル国の初代国王は女好きで子供をたくさん作った結果、デュガル国では勇者適正を持つ人間が他と比べると異様に高いとか。
休んでいる間に隠蔽の設定を変更しておく。
と言ってもステの表示を下げただけだが。
レベルはデルイ村に来るまで犬を倒し続けた分で16まで上がっていた。
あとアイテムボックスから隠蔽の腕輪を取り出して身につけておく。
それとラーチェルがスキル貸与で付与魔法を希望したので貸与した。
鑑定眼で見ると付与魔法4となっていた。
休憩を終え、また南に歩き始めた。
半分は過ぎたので夕方になる前に着きそうだ。
そのまま2人で歩いていると何かの音が聞こえてきた。
金属音のような?
ラーチェルに確認すると何も聞こえないとの返事。
索敵の効果かと思い当たる。
駆け足で進むと人の姿が見えてきた。
揃いの装備をしているのが8人と他の4人が切り合っていた。
どういう理由で争っているのか分からないので介入もできん。
もう少し近づくとラーチェルにも相手が見えたようで顔色が変わった。
「帝国兵・・・」
「もしかしてあの揃いの連中?」
「そう。なんとかしないと。」
「帝国兵に絡まれている方を助けるという事でいいの?」
「出来るならお願い。」
「分かった。」
返事と共に瞬間移動を使い、4人組が射線に入らない位置に移動する。
「フリーズランス!」
フリーズランスを受けて帝国兵の一人が全身凍りつく。
突如現れた敵に慌てて帝国兵が2人こちらに来たが、フリーズランスをもう一発とアイススピアを一発撃つ。
フリーズランスを食らった方は全身凍結、アイスピアを食らった方は腹をアイススピアが貫通して倒れた。
(相変わらず加減が分からん!)
アイススピアは生かしたまま捕らえようとしたのだが、結果は切腹より酷い状態である。
この間に帝国兵は2人倒されていた。
残りは3人だが後ろからウィンドカッターを食らってまた一人倒れた。
ラーチェルが近づいてウィンドカッターを使用していた。
残り2人のうち一人がラーチェルの方に走っていったのでフリーズランスを唱えて倒す。
(足とかを凍結させて捕獲するために隠蔽した状態でも水魔法のレベル高くしておいたんだがなぁ)
現実は氷像祭りである。
そもそもなんで凍結が水魔法なんだろうか?
捕獲するならウィンドカッターとかの方がいいかも知れない。
最後の一人も4人組に倒されていた。
「助かりました。ありがとうございます。」
先頭にいた女性から礼を言われた。
4人組は女性2人と鎧とジジイだった。
挨拶してきた方は小柄でセミロングの金髪で胸のサイズは普通だった。
ラーチェルと同じくらい。
しかし今はどちらも小さく見える。
もう一人の女性のせいである。
でかい。
試合で1ラウンドが始まった瞬間、TKOで相手を倒せるくらいの威力がある。
このおっぱいとロングのストレートでメイス装備、間違いなく僧侶であろう。
あと2人のうち、鎧のほうは顔しか見えている所はなく大盾とハルバードを身につけどこから見ても完璧なタンクだ。
こんな開けた場所でその鎧が役立つかは怪しいが。
実際帝国兵は胸当てだけで軽快そうに動いている。
ジジイはローブに杖という人数が増えてきたら馬車の中でお留守番のような格好をしていた。
倒れた帝国兵は何人かは生きていた。
が、ラーチェルが倒れた帝国兵に対してウィンドカッターを唱えて腕を切り飛ばしていた。
「ちょ、ちょっと。アイシャすぐに治療して!」
小柄な方の女性が慌てて指示を出す。
慌てて俺もラーチェルを後ろから拘束する。
「邪魔しないで下さい!うちと同じ目に合わせるんです!」
叫びながら足元に転がっていた帝国兵の腕を何度も踏みつけてグチャグチャにしていた。
「落ち着いたか?」
「いいえ。」
安西先生、復讐がしたいですと言われたらどうすればいいんでしょうか?
時には諦めさせるのも大切だと思うんです。
夜になってしまった。
結局生きていた帝国兵は一人でその一人も片腕が無かった。
すぐに繋いで回復すればつながる場合があるのだが、今回は証人として生かすのが目的なので繋ぐ気もなかったらしい。
ラーチェルに生き残った帝国兵を殺さない約束をさせて拘束を解いたら氷像をドロップキックで砕いて回っていた。
おっかねぇ。
4人組は小柄な女性がリディア
おっぱい僧侶がアイシャ
鎧がロンド
ジジイがフォールと名乗った。
気になる点が2点あった。
まずジジイ。
鑑定眼で見ると他の3人がLV21、LV18、LV23という中でLV48と飛びぬけて高レベルだった。
火魔法5というのもまた高い。
次にリディア
スキルに勇者適正と自爆を持っていた。
そして名前欄が
【名前】:リディア=デュガル
となっていた。
どう見てもこの国の王族です。