5.デルイ村2
「言われると思ったわ」
「スキルを見た時から殺されるか奴隷にされるかのどちらかだと思ってた。
加護の手なんて本当に存在するのね」
「そうだ。奴隷になるなら加護の手を使って手足を治そう。」
「奴隷になるわ。」
女性は即座に答えた。
「このまま待っていても死ぬだけですしね。」
「じゃあ、決まりだな。」
「ええ、条件を決めて契約をしましょう。契約が使えるなら早く使って。」
あれ?何か違和感が?
「契約って紙に書いてとか首輪とかじゃなくて?」
「何を言っているのか分からないけど契約のスキル持ってるでしょ。」
「契約ってこういう場面で使うのか。魔物を従属させるのに使うのかと思ってた。」
「魔物を従属させようと思ったら精神魔法か魅了眼が必要よ。その後に契約するなら可能ね。」
その2つはペナルティがあったから取らなかったけど取っておけばよかった・・・
契約を使用してみる。
光の板のような物が浮かび上がる
「契約内容を読み上げて互いに了承すれば契約が結ばれるわ。」
「分かった。そういや名前を名乗ってないな。俺はノワケ。」
「私はラーチェルよ。」
契約内容
ラーチェルはノワケの奴隷となる
ラーチェルの左手と右足の欠損をノワケは修復する
ラーチェルはノワケを殺害しようとしない
ラーチェルはノワケのスキルについて不利になるような事を他者に公言しない
契約期間はラーチェルが死ぬまでもしくはノワケが解放するまで
「一つ追加してもいいかしら。」
「なんだ?」
「スキル貸与についてうちが希望するスキルを貸与してくれるってのを追加して欲しいの。」
俺は少し考える
スキル貸与
隷属した相手に対し自身のスキルを貸し与えることが出来る
ただし相手が使用できるスキルはランクが下がる
空間魔法や結界魔法がやばそうだ。
既に殺害不可の条件を付けているが念のためもう一つ条件を付ける。
「こちらに害意や逃亡を企まないならいいだろう。」
契約内容
ラーチェルはノワケの奴隷となる
ラーチェルの左手と右足の欠損をノワケは修復する
ラーチェルはノワケを殺害しようとしない
ラーチェルはノワケのスキルについてノワケに不利になるような事を他者に公言しない
ラーチェルへノワケは害意や逃亡を企まない限り希望するスキルのスキル貸与を行う
契約期間はラーチェルが死ぬまでもしくはノワケが解放するまで
「これでいいか?」
「ええ。」
浮かび上がっていた光の板が消え、光が2人に吸い込まれる。
さっそく俺はラーチェルに手を当て、加護の手を使い手足を治そうとする。
左手の付け根から肉が盛り上がって手の形になっていく。
あっという間に左手が修復された。
足も同じように治っていた。
ラーチェルは目に涙を浮かべてた。
椅子から立ち上がって右足を上げたり下ろしたり、左手を握ったり開いたりして感触を確かめていた。
「ありがとう・・・ここで帝国兵か魔物に襲われて死ぬんだと諦めてた。」
「そういや帝国兵はまた襲ってくるのか?。」
「分からない。西にある町が占領されたって話も聞いてないし、偵察のついでだったのかも。」
帝国との国境はまだ遠いらしい。
それなのにこの村は襲われたそうだ。
もう今日は遅いので今日はここに泊まり、明日の朝になったら村人が逃げたという町に行こう。
食料を出して2人で食事をした後、ベッドのある2階に上がった。
夜中
「ねぇ、起きてる?」
ラーチェルが一緒に寝ているベッドの中でゴソゴソ動いて声をかけてきた。
「ん?どうした?」
「明日逃げるなら北じゃなく南がいい。」
「なんでだ?北にこの村の人が逃げたんじゃないのか?」
「もうここの人とは会いたくないわ。北にみんなが逃げる時に馬車の荷台に乗せてくれるどころか、うちの薬や杖とかも盗んで行かれたし。置いていかれるかもとは少し思ってたんだけどね。杖と薬が残っていれば同じように残された2人もあなたが来るまで生きていたかもしれないのに。」
「分かった。2人の遺体は?」
「そのまま。でももう腐って酷いことになってるから埋めようとか思わないほうが良いよ。」
「南の町はどのくらい離れてる?」
「北の町の倍くらい。だいたい1日あればつくかな。」
思ったより近いな。
3日くらいかかると思ったのに。
「分かった。じゃあ明日朝になったら南に向かおう。」
朝
既にラーチェルはベッドにいなかった。
下に降りると物の整理をしていた。
おはようと声をかけられる。
「おはよう。何か持っていくものはあるか?」
「本は全部持って行きたいんだけどね。食料とか水とかで荷物が埋まっちゃうよ。」
ん?もしかして
「アイテムボックスは使えないのか?」
「あっ、そういやノワケさんはアイテムボックスあるんだね。入れてもらおうかな。」
「あとこういうのもあるぞ。」
と言ってアイテムボックスから腕輪を取り出して渡す。
ラーチェルはまじまじと腕輪を見て
「・・・、アイテムボックスが付与された腕輪・・・」
「信じられない。アイテムボックスって付与できるんだ・・・」
「あと魔法使うなら杖と指輪どちらがいい?」
「慣れた杖のほうがいいかな。」
「じゃあ。」
といって短杖を渡す。
「この杖もおかしい・・・。魔力強化+4ってどこの城から盗んできたの?」
「鳥から貰ったんだよ。そういや魔力強化はステータスにプラス表示されないのか?」
「鳥から貰ったって・・・ドラゴンとか言われたほうがまだ信じられるわよ。魔法媒体は魔法を使用する時だけ強化されるからステータス上には表示されないって話。」
ドラゴンやっぱりいるのか。
ラーチェルはアイテムボックスに片っ端から本やら道具を入れていた。
そしてラーチェルからダミーでいいから背負ってなさいと鞄を渡された。
こちらも村に残っていた樽に水を汲んでアイテムボックスに放り込む。
食料は村にほとんど残っていなかったがそれでも野菜が畑に少しあったのでそれを収穫した。
「さあ、いこ。」
準備が終わったラーチェルが声をかけてきたので2人で村から南へと向かった。