真夏日の幻
酷い暑さだった。
視界一面は緑一色に染まり、太く歪んで伸びた巨木や蔦や枝に遮られ、先が全く見えない。
方々に生い茂った草花は見たこともない極彩色をきらめらせて道無き道を絶とうと生え、鬱陶しく足首に絡みつく。鬱蒼と聳える木々の根は太く、縦横無尽に伸び蔓延り、草で隠れたそれに躓いては何度も転びそうになる。
それこそ滝のように汗が流れて、ブラウスもスカートも靴下もベタベタと身体に纏わり付き酷く気持ちが悪かった。
早々に脱ぎ捨てたベストは、重たくなり邪魔者と化した鞄の中に仕舞い込まれていた。ひたすら無言で流れ落ちる汗をハンドタオルで拭い、額に張り付いた前髪と長いポニーテールを払い、苦い唾を飲み込む。
持っていたペットボトルはとうに空で、カラカラに渇いた喉から深いため息のように暑く荒い息を吐いた。
もう三時間あまり、優璃はこうして鬱蒼と茂った熱帯雨林のような森を歩き続けている。
腕も脚も重く、熱気と疲労と軽い脱水症状で鈍い頭痛が走る頭はぼーっとして何にも考える事ができず、ずるずると機械的に脚を動かしている。
肩で息をしながら、朦朧と揺らぐ緑の視界が一瞬、切れたような気がした。
はっと息が止まり、藁にも縋る思いで最後の体力を使って重たい身体を精一杯動かしてよたよたと走りだした。
足が根に引っかかり、転びそうになって太い木に肩がぶつかった。
呻きながらそれでも出せる全力を振り絞って走る。
木々の間からきらり、きらりと光が差し込み、深緑が一足ごとに美しいエメラルドグリーンへと変わり、次第に明るくなっていく。
ふらつく体を必死で動かし、息を弾ませて走り続けた。
そして、大きな葉と蔦に阻まれた木の間を割き、煌煌とした光の中へ飛び込んだ。
「……で、出口…っ!!」
そこは一面、砂埃を上げる荒野だった。