とある夜のお話
掲載日:2026/04/14
慣れない喧騒と何杯目か分からないハイボール
その夜にふさわしい選曲に
感性のブレーキが易々とひしゃげた
周りの話し合う声笑う声
笑いを取るもの、下劣な話を始めるもの
真偽の分からない噂、初めての匂い
珍しい刺激なんて沢山あったのに
いつのまにかほどかれてたその艶やかな黒髪
普段の何倍も大人びていて
どんな刺激よりも確かに
私の心を釘付けにしてしまった
目が合って、にこやかに微笑んだあなたは
何を思っているのか
照れずに微笑み返し、そそくさと目線を落とせば
光沢のある緑と赤橙の箱
純粋に好奇心だった、正直気になっていた
飲む時だけ嗜んでるなんて話を聞いてから
箱を手に取り、ひっくり返してじっくり眺めた
不意に視界に入り込んだ、噛み跡の残る誘惑
「吸う?」
夜が明けてしまった今でこそ、どうにか鮮明に思い出そうとして
魔法の時間に縋ろうとすればするほど
淡くなって消えてしまう
はっきりと思い出せなくなってしまう
もう煙の味も、その残り香も
忘れてほとんど分からなくて
必死に鼻腔を探して辛うじて見つけ出した
ようやく感じることの出来た
その西瓜のフレイバーは
甘く蠱惑的で溺れそうなのに
メントールに攫われ
さわやかに消えてしまう
まるであなたのようだった
それだけが忘れられなくて
またひとり確かめるように
54番と呟いた
ニ度と同じ味はしなかったよ。




