07
「来月から忙しくなるから、ちょっと連絡減るかも」
別れ際、何気ない風に遥さんが言った。
軽い調子、いつもの笑顔。
胸の奥がざわっとしたけれど、私は聞き分けのいい“いい子”の顔で頷いた。
「分かりました」
遊びの関係だから。
線を引かれれば、それ以上は何も言えなかった。
***
実際に、連絡はぱったりと途絶えた。
1週間、2週間、3週間。
私が連絡をしなければ、遥さんからは一通のメッセージすらこない。
“もともと恋人じゃないし”
“忙しいって言ってたし”
そう何度も自分に言い聞かせながら、スマホの画面を覗くたびに胸がちくりと痛む。
私から送れば、きっと返信くらいはくるだろう。
だけどそれは「遊びだから」と必死に言い聞かせてきた一線を越えるようで、どうしても送れなかった。
「七瀬、今日は…」
「ごめん、今日は仕事終わりに六花さん来てくれるみたいだから寄り道しないでに帰るね」
申し訳なさそうに、でも少しだけ嬉しそうな様子の七瀬。
今日は金曜日。
「……いいなぁ」
無意識に零れ落ちた言葉に自嘲する。
七瀬と六花さんは恋人同士で、私と遥さんはただの“遊び”。
ただそれだけのこと。
比べて落ち込む自分が、余計にみじめだった。
七瀬が心配そうに私の顔を覗き込む。
「美咲ちゃん…何かあった?」
「……別に」
「ほんとに?」
「っ…七瀬には分かんないよ…!」
その瞬間、自分の口から出た声に自分で驚いた。
七瀬が、きょとんと目を瞬かせる。
「ご、ごめん」
慌てて謝るけれど、七瀬は困ったように眉を下げて「ううん、大丈夫」と微笑んだ。
その笑顔が、胸に刺さる。
七瀬は良い子だ。
それにひきかえ、私は――。
自己嫌悪で、潰れそうだった。
何をやっているんだろう、私。
七瀬の幸せを妬んで、八つ当たりして。
最低だ。
「……ごめん、先、帰るね」
七瀬を振り切るようにして歩き出す。
呼び止められたけれど、振り返る気にはなれなかった。
***
そんなふうにぐちゃぐちゃになっていたころ、遥さんからのメッセージがやっと届いた。
《久しぶり、今日会える?》
ただそれだけ。
けれど胸が跳ねる。
反射的に指が動いて、返事を打っていた。
《会いたいです》
***
久しぶりに会った遥さんは、前と同じ笑顔だった。
何も変わらない声で「うち来る?」と聞く。
気づけば私は、ただ頷いていた。
そして、いつものようにキスされる。
抱き寄せられ、肌に触れられる。
嫌な気持ちも、曖昧な感情も、全部気が付かないふりをする。
“この瞬間だけでもいい”
“考えなくて済むなら、そのほうが楽”
自分から腕を回し、唇を求めると、遥さんは笑って言った。
「可愛い」
その声を聞いている間だけ、私は安心できた。
彼女の体温に触れるだけ、私の心は冷たく固くなるような気がしたけれど。
自分がどんな顔をしているのかなんて、もうどうでもよかった。




