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05

オフィスの入ったビルの一角。

休憩スペースに置かれた自販機のボタンを押す。

ほのかに広がるコーヒーの香りにほっと息をつきながら、頭の中で今後のスケジュールを組み立てる。

なんとか今の案件は納期に間に合いそうだし……と考えているところで、やってきた六花がひらりと手を振った。

部署は違っても、入社当初から一緒に頑張ってきた同期。

お互いの性格も恋愛観も真逆なのだが、不思議と気の合う同僚であり友人だ。



「お疲れ」

「お疲れさま。……遥、最近美咲ちゃんと会ってる?」



同じように自販機でカップコーヒーを買いながら。

友人のストレートな問いに、遥は一度だけまばたきをする。



「ん? うん。なんで?」

「七瀬が『最近美咲ちゃんが元気ない気がする』って気にしてるから」



六花は、カップの縁に口をつけたまま視線だけを遥に向けた。

その目は穏やかなのに、よく人の心を見透かす。



「……もしかして、遥がちょっかい出してるのかと思って」

「ちょっかい、なんて」



遥は苦笑しながら、コーヒーを口に運ぶ。



「一応、遊ぶ相手は選んでるつもりだけど」

「ふうん」



六花の返事は短い。

けれど、その一言に含まれた「ほどほどにしなさいよ」という含みを、遥はちゃんと理解していた。



「他人の恋愛に口挟む趣味はないけど、向こうはまだ学生なんだからね」

「はーい、わかってます」



そう、相手は大学生。まだ子供。

七瀬と付き合う六花と違って、本気になんて、なるわけがない。



だからあえて軽く答えて、会話を切り上げた。



---


――それなのに。

デスクに戻ってからも、心の奥に六花の言葉が引っかかっていた。

本来なら、もうそろそろ引き際を考える頃だ。

長く続けるつもりなんて、最初からなかった。

いつもそうしてきたし、恋愛を深刻に抱え込むのは性に合わない。

責任の伴う関係は苦手。


来るもの拒まず、去るもの追わず。


恋愛なんて、消費行動の一環でしかない。

そのときに楽しければいいもの、だから身体だけの遊びや一夜限りで構わない。

そう思っているのは、今でも変わっていない。

だから、「遊び相手」も見極めているつもりだったし、美咲にも同じような印象を持ったからこそ声をかけたのに。

誘えば素直に頷くくせに、時々、無防備な笑顔で「楽しかったです」なんて言う。

そうかと思えば、時折泣きそうな顔をする。

あんなふうに「普通の恋愛」みたいに感情をむき出しにされると、悪いことをしている気がして、胸の奥が少し痛む。

深入りする前に引くべきだと、そう思うのに。



「(ほんと、可愛いんだよね)」



指先に残る、彼女の髪の柔らかさを思い出す。

いけないと分かっていても、手放すのが惜しくなる。


次に会ったら、やめよう。

――たぶん。


そう思いながら、遥は仕事に戻った。





その頃、美咲は、また次の「会いたい」のメッセージを待ちながら、

何度もスマホを確認する自分をどうしようもなく嫌っていた。


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