03
――感性の似ている人。
初対面の印象と変わらず、遥さんの隣は居心地が良かった。
物事の好みも、考え方も。
会話の運び方や間の取り方も絶妙で、経験豊富な「大人」なのだと実感させられる。
ワインのボトルを2人で1本空けてしまう頃、私はようやく切り出せた。
「……今日、どうして誘ってくれたんですか?」
「ん?、」
ワイングラスを傾けながら、遥さんがふと微笑む。
ゆらゆらと、赤い水面が揺れる。
「私が美咲ちゃんに会いたかっただけ」
あっけらかんとした口調。
でも、目は笑っていない。
綺麗に塗られた、オレンジ色の爪先。
その一言で、飲みかけのワインが妙に苦く感じる。
――その夜を境に、私たちは“たまに会う人”になった。
最初は食事やお酒を楽しむだけだった。
気まぐれに遥さんから連絡がきて、私の気分次第で会ったり会わなかったりする。
私から連絡をすることはなかった。
私が断っても、遥さんが深追いすることもない。
ただ、何事もなかったようにまた連絡がくる。
そんなことをしているうちに、少しずつ境界線が曖昧になる。
お酒の席で手や肩が触れる。
帰り際、駅前の人混みの中でキスされる。
断る理由を探すより、流されるほうが心地よかった。
「嫌じゃないんだ?」
「……遊び、なんでしょ?」
「――大好きよ、美咲ちゃんみたいな子」
楽しそうに笑って、再び唇を塞がれる。
今までの誰よりも、キスの上手い人だった。
関係に明確な名前がつかないまま、深みにはまっていく。
飲みに行ったあと、遥さんのマンションに泊まることも、そのまま身体を重ねて朝を迎えることも珍しくなくなった。
「可愛い、美咲ちゃん」
遥さんが甘く、ほんの少し低い声で囁いて、これでもかと甘やかされて乱される。
身体の相性は悪くない。
男の子みたいに力任せにされない分、なんなら私もこっちの方がいいくらい。
――それでも。
遥さんも私も「好き」とは言わない。
身体を重ねて、溺れて、朝になれば「またね」と言って別れるだけ。
恋愛じゃない、ただの大人の遊び。
何も壊れない、傷つかない。
私ひとりが好きになって傷だらけになる「恋」よりも、ずっとずっと楽だった。
***
「おはよ、七瀬」
翌日、大学で。
おはよう、といつものように笑って返してくれる彼女の左手の中指には、見慣れない指輪があった。
「どうしたの?それ。可愛い」
「記念日に、って六花さんがくれたんだ」
幸せそうにする七瀬を見て、胸の奥がちくりと痛む。
私と、七瀬と、何がこんなに違うんだろう。
「(私だって、誰かをちゃんと好きになりたかったのにな)」




