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あれから少しずつ、また連絡が来るようになった。
「久しぶり。今週、空いてる日ある?」
そんな軽いメッセージ。
不定期に、何事もなかったみたいに。
だから私も、何事もなかったみたいに返す。
「水曜なら大丈夫です」って。
言い訳は簡単だった。
“友達としてならいい”とか、“ちゃんと線を引けば平気”とか。
でも本当は、そんなの全部嘘。
会いたかった。
声が聞きたかった。
それだけだった。
***
「一緒に来たかったんだ」
そう言いながら、遥さんはお気に入りのお店に案内してくれる。
グラスを合わせて、仕事の話とか、最近のニュースとか、他愛ない話ばかり。冗談を言って笑う遥さんは、少しだけ疲れて見えた。
「最近忙しいんですか?」
「うん、まぁね。客先がちょっと面倒で」
そう言いながらも、私のグラスが空くとさりげなく注いでくれる。
あの頃みたいに手を伸ばすことも、触れることもない。
だけど、テーブル越しの距離が心地よくて、少しずつ“それでもいいかも”って思えてくる。
――思うようにしないと、息苦しさでどうにかなりそうだった。
***
帰り道、改札の前で立ち止まる。
「送っていかないよ。この時間ならまだ大丈夫でしょ?」
泊まらない、終電前には解散する。
歳の離れた友達みたいだ。
「うん、大丈夫」
そう言って笑うと、遥さんも少しだけ笑って、「じゃあまた」と手を振った。
触れなかった夜は、少しだけ寒い。
でも、もう求めるのはやめようって決めた。
この人は、私に“特別”なんかくれない。
それでもいい。
この関係が壊れなければ、それでいい。
***
遥さんにとって、恋愛はいつだって“消費活動”の一環らしい。
誰かと出会って、惹かれて、満たされて、そして飽きて、捨てる。
そうやって次へ進む。
関係を繋ぎ止める努力をするよりも、もっと合う相手を探すほうが、彼女にとっては有意義で。
その繰り返しの中で、唯一“残った”のが六花さんで、彼女の中で「親友」という特別な位置を占めているのだと、私も、うすうす気づいている。
でも、私には分からない。
――相手の愛情を繋ぎ止めておくことでしか、自分に価値を見出せない私には。
どうしたら、私は彼女の「特別」になれるんだろう。
***
帰り道の電車で、窓に映る自分の顔を見て、笑ってみる。
ちゃんと“割り切れてる”顔をしている。
もう泣いたりしない。
もう、期待したりしない。
それでも時々、1人で無性に泣きそうになる。
いつまで私は、この重くて苦しい感情を、引きずって生きていけばいいんだろう。




