01
「カンパーイ」
駅前の、少しお洒落な居酒屋の一角。
チン、と音を立ててグラスを合わせる。
生ビール2つ、梅酒と、レモン酎ハイ。
私の隣には友人の七瀬、向かいの席にはその恋人である六花さん。
その隣に、同僚だという女性の遥さん。
2人とも社会人だ。
六花さんとは数回目、遥さんとは初対面。
七瀬に誘われて、今日は珍しいメンバーでの女子会だった。
「七瀬は今日アルコールそれだけだからね」
「えー」
「だめ、すぐに酔って寝るから」
連れて帰るの大変なんだから、と言う六花さんに不服そうに口元を尖らせる。
数カ月、親友の七瀬に
「恋人が出来た」
「年上の、社会人の女の人」
なんて打ち明けられたときは衝撃だった。
しかも七瀬の片思いから始まっただなんて。
偏見があるわけではないけれど、異性としか付き合ったことのない私からすると共感は難しい。
けれどこうして実際目の当たりにしてみると、二人はとても親しげで、幸せそうで。
同性ではあるけれど、しっかりと恋人らしい柔らかな空気はなんだか不思議だった。
お互いにちゃんと好き合ってるのが分かって羨ましかったのも本当。
「(……私は振られたばっかりだし)」
レモンハイのグラスに口を付けながら、内心でため息をつく。
思い思われ、みたいな七瀬が可愛くて、羨ましくて、ほんの少し劣等感を刺激される。
比較的途切れることなく恋人は出来るけれど、長続きもしない私。
数週間前に振られた彼に、別れ際に「可愛げのない女」と言われたのが、未だに小さな棘のように胸の奥でチクチクしていた。
「美咲ちゃん、楽しめてる?」
ぼんやりする私に声をかけてくれたのは遥さんだった。
赤みのある茶髪のストレートが、肩口でさらりと揺れる。
「あの2人が幸せそうで、おなかいっぱいです」
半分軽口、半分本音。
遥さんは意外そうに少しだけ目を見開いた後、「分かるよ」と少し苦く微笑んだ。
「自分には出来ない恋愛してるなって思うと、羨ましくて、ちょっと妬ける」
「……。」
感性の似てる人。
それが、私の遥さんに対する第一印象だった。
***
「おーい、寝るな〜七瀬〜」
「んー…」
とろんとした目で六花さんの肩に凭れる七瀬の頬はすっかり赤い。
なんだかんだで彼女の目の前にもグラスは3杯ほど空いていて、2時間の飲み放題の間にしっかり酔ってしまったらしい。
「ごめん、七瀬送って帰るね」
今にも寝落ちしてしまいそうな七瀬をタクシーに押し込んで、六花さんは苦笑しながら一緒に乗り込む。
「ごめん遥、美咲ちゃんお願い」
「はいよ〜」
残されて、遥さんと2人きり。
ドラマやお酒、本の好みなんかも似ていて、居心地のいい女性だった。
もう少し一緒に飲みたいな、でも迷惑かな…なんて考えていると「二次会行く?」と遥さんの方から誘ってくれる。
行きたいです、と答えると、遥さんは「良かった」と嬉しそうに笑ってくれた。
連れて行ってくれたのは、さっきまでとの居酒屋とは違う、ちょっと大人向けな雰囲気のバーのようなお店だった。
遥さんが適当なカクテルを2つ注文してくれて、「乾杯」と小さくグラスを合わせる。
酔った勢いで気が大きくなったせいもあるのだろう、最近振られたこと、いつも長続きしないこと、振られる理由もほぼ毎回同じこと――およそ初対面の相手に話すような内容ではないことを、1人で話してしまった。
あんな、幸せそうな七瀬には聞かせたくない、ただの愚痴。
「なんかもう…彼氏なんかいらないって思ってるんですよね……」
遥さんはただ相槌を打ちながら聞いてくれて。
全部吐き出したあとに、ぽんぽんと頭を撫でられてはっと我に返った。
「…っすいません!…なんか……こんな話…」
「いえいえ、……少しはすっきりした?」
「っ……」
こくんと頷くと、遥さんはそれならよかったと微笑んだ。
「しばらく彼氏はいらないの?」
「そうですね…なんか、疲れちゃって」
「じゃあ――」
にっこりと笑った遥さんの指先が、グラスを掴む私の手を撫でる。
綺麗に塗られたオレンジ色の爪。
ただそれだけなのに、とても艶っぽくて。
「今度は年上のおねーさんと遊んでみるのはどう?」
愉しそうな遥さんに、一気に酔いが覚める。
びっくりして、何も言葉を返せなかった。




