第四話 人間と妖怪と
「先生、ありがとうございました」
最期には離れていた息子や孫、友人が集まって遙果の死亡診断を聞いた。
久保の表情は眠っているようで、皆が「自宅で過ごせてよかった」と口々に言っていた。
朝霧が漂い、薄ら明るい外に出たところで、娘が玄関先でそう言った。
「お疲れ様でした。大変だったでしょう」
「父が、ここに帰ると言ったときは本当に驚きました。大変でした。でも、あの顔をみて頑張ってよかったな、って」
「体調を崩さないように、気をつけてください」
何度も開けた扉を閉めながら、頭を下げる。
もうここに来ることはない。
気になって周りを見渡すと、枯れおちたキンモクセイの絨毯の上に、正座している影がみえた。
「…」
座敷童の前でしゃがみ込みこんだのはいいものの、なんて言ったらわからない。
座敷童は深く頭を下げている。
「君は…これからもここに?」
『僕にも、もう力がなくて…あのこけしを、遊んでくれる人もいなくて…だから、お別れです』
「そっか」
『ぼぅと、最後に遊ばせてくれて、ありがとう』
「ん」
久保が亡くなって、さらに座敷童の体は透けたように思う。
遙果は日本家屋を見上げる。
きっとこの家を継ぐ人もいないようだった。
家と共に、座敷童もそのうち消えてしまうのだろう。
もしかしたら、久保もそれが分かっていたのかもしれない。
だからこそ、ここに帰ってこようと思ったのだと気付く。
藤脇 遙果は在宅医。
通院できない患者を、自宅に訪問して診療するのが主な仕事。
そして、患者に寄り添うのは人だけではない。
寄り添いたいと思う、妖怪達にも癒やしを。




