第三話 座敷童
『ぼぅは言ってくれた!キンモクセイが咲いたら遊ぼうって!そうだよね!』
姿形をみるに、座敷童だ。
しかし、力はかなり少なくなっているようで、普段はっきり見える遙果でも、透けてみえた。
黙っていると、久保が小さく「ああ…」と呟く。
座敷童の声が聞こえているのだ。
「この子が、あなたがこの家に帰ってきた理由ですか?」
「ああ…」
『そうだよ、って…⁈』
座敷童は、遙果が見えていることに驚いたようだ。
「こんにちは、座敷童さん」
『み、見えるの⁈』
「昔から私はよくみえるんです」
この力のせいで苦労したが、それは別の話。
遙果は座敷童に微笑んだ。
「彼とはそんな約束をしていたんですか?」
『そうだよ!昔から、ぼぅがちっさいときから、僕たちはキンモクセイの花の下で遊んでたんだ。今年も、遊ぼうと思ってたのに…』
キンモクセイが咲くこの季節。
久保は座敷童と遊ぶために帰ってきたのだろう。
『もう…生気が…なんで…?』
「人間の寿命なんですよ」
『じゅみょう、それ、なに?』
問いかけているが、座敷童も分かっている。
彼の生気が尽きかけていることが、寿命なんだと。
「人間の体はいつかは限界が来ますから。久保さんはもう九十年近く生きています。そろそろなんでしょう」
『もう遊べないの?』
「今日が、最後でしょうね」
『なんで…』
座敷童なら知っているはずだ。
この古い日本家屋なら、今までも多くの人間を見送ってきただろう。
『そんな…だって…ぼぅは今までの人と違って、大きくなっても僕が見えてて…』
「でも、人間なんですよ。みんな、いっしょ」
ぽろり、と座敷童の瞳から涙がこぼれる。
そんな座敷童に、久保がゆっくりと手を伸ばした。
「すまんな…もっと、遊びたかっただろ…」
『ぼぅ…』
久保の手は座敷童をつかめない。
もう実体化できていないんだ。
遙果はとっさにその手にこけしをあてる。
このこけしは座敷童とつながっている。
多分、感覚的には同じはずだ。
「寂しくなるなぁ…」
『そんな…ぼぅ』
そう言うとまた眠ってしまう。
が、先ほどに比べると息は大きくゆっくりだ。
時間は、残されていない。
「す、すいません!来客に対応していて!」
「大丈夫ですよ」
バタバタと足音がしたと思うと、久保の娘が戻ってくる。
座敷童がいても、その表情は変わらない。
多分、娘にも見えていない。
遙果は久保本人から離れ、座敷童が聞こえる場所で娘に向き合う。
「おそらく今日中か、遅くても明日か。それぐらいの気持ちでお願いします」
「…そう、ですか…」
「最後に会いたい人がいれば、お早めに。このままご自宅で過ごされるのがよいかと思います」
「わかりました…」
覚悟を決めた顔を確認した遙果は立ち上がった。
ちらり、と座敷童を確認すると、あふれた涙を拭くことなく、久保の傍に座っていた。
「身近な人との時間を、大切にしてください」
ここまでになるともう邪魔にしかならない。
遙果は荷物をまとめて、自宅を後にした。
その日の夜明け。
久保が息を引き取ったと、連絡があった。




