第二話 こけし
「何かご存じですか?」
「いえ……」
ひとしきり部屋を見渡し、何もないとわかった久保は寝てしまった。
診療を終えた遙果は、娘に聞いてみるが、首を振るばかり。
「ふむ……」
天井を見上げる。
平屋の木造建築。
久保本人が幼い頃からよく過ごし、亡くなった妻との思い出が詰まっているのだという。
本人がここで過ごすことを、強く望んだ。
自宅にいるだけでは、解決できないこともある。
一週間もすれば、キンモクセイはきっと咲いていない。
「心配ですね、数日後に来ます」
* * *
数日後。
キンモクセイの花が散りかけていた。
娘の案内で久保の部屋に入る。
「こんにちは、久保さん、失礼します」
部屋の状況は数日前と変わらない。
しかし、久保のから挨拶が返ってこず、代わりに、部屋に大きなこけしが置いてあった。
「ああ!すいません!」
久保の娘が慌ててこけしにかけより「なんでこんなところに」といいながら、片付けようとする。
「あ、ちょっと」
遙果はこけしに違和感を抱き、その手を止めた。
「こけしはそのままで良いですよ。多分、大事なものでしょう?」
「確かに昔から父はこれを大切にしていました」
「であれば、見えるように置いておきましょう」
こけしの大きさは、子どもの背ぐらいあり、ベッドの横に置くと、丁度頭の高さが合う。
「昨日ぐらいからほとんど寝ています。声をかけても起きなくて…息はしてるのは見てるんですが…」
遙果が脈に触れてみても、かなり弱くなっている。
足先も色が変わってきている。
「痛いとか、しんどいとか、叫んだりはしますか?」
「いいえ…でも、時々譫言みたいに、誰かの名前を呼んでいます」
「久保さんは…」
『ピンポーン』
遙果が問いかけるよりも早く、家のインターホンが鳴る。
久保の娘が驚いて出ようか戸惑っているので、「出てきてください」と送り出す。
久保と二人きりになった遙果は、ベッド横にしゃがみ、問いを続けた。
「なぜ、この家で過ごしたいと思ったんですか?」
『僕と遊ぶためだよね!』
出てきた。
ゆっくり息をしている久保の顔の横に小さな影が現れそう言う。
こけしと同じ顔をしているが、大きさは手のひらサイズ。
『ぼぅは言ってくれた!キンモクセイが咲いたら遊ぼうって!そうだよね!』
姿形をみるに、座敷童だ。




