3、若くなっても性格は変わらないのよ
朝日が差し込むリビングのソファで、私は目を覚ました。
身体中が、ひどく痛む。
「……痛たたた。どうしてこんなところで寝てしまったのかしら」
この歳でソファなど論外だ。
翌日、全身の関節が悲鳴を上げることくらい、分かりきっている。
髪をかき上げながら、勢いよく身を起こす。
その瞬間、ふと目に入った自分の手に、視線が釘づけになった。
「……ん?」
手の甲に、浮き出た血管がない。
白く、張りのある、滑らかな手。
——誰の手だ、これは。
「……んんんんん!?」
慌てて顔に触れる。
触感が違う。
声も、どこか高い気がする。
胸騒ぎのまま洗面所へ駆け込み、鏡の前に立った。
「……う、うそでしょ……」
そこに映っていたのは、若い頃の自分だった。
いや、若いどころではない。
思わず、全身が映る位置まで下がる。
「……ちょっと待って。二の腕が……たるんでない。
お腹も出てないし……お尻が、上がってる……」
言葉が、震える。
「……うそ、でしょ……」
鏡の中の自分に、思わず問いかける。
どうやら、本当に若返ったらしい。
——ということは。
寿命が三か月、という話も……本当なのか。
「……時間が、もったいないわ」
一瞬の躊躇のあと、私は即座に行動に移った。
急いで、いつものスーツに袖を通す。
だが。
「……何、これ」
ウエストが、ぶかぶかだ。
しかも、まるで似合っていない。
女帝の正装とも言える高級スーツが過去の遺物のように見えた。
「こうしちゃいられないわ」
私はスマホを持つとすぐに検索を始めた。
若者は、どこで服を買うのか。
「……ふんふん。このデパートに行けばいいのね」
私はそれから手持ちの中でいちばん若者向きに見えそうな白いシャツと黒のパンツを選び、外に出た。
目的地は、若者向けの店が集まる複合施設。
足を踏み入れた瞬間、空気が違う。
その中で、私はこれまで一度も足を踏み入れたことのない店の前で立ち止まった。
「っらっしゃいませ〜♪」
やけに明るい声がして、振り向くと店員が近づいてくる。言葉遣いがなっていない。
内心、苛立ちを覚えながらも口を開いた。
「似合う服が欲しいのだけど。適当に見繕っていただける?」
「お客さん、お嬢様ですかあ〜? 言葉遣いめっちゃ丁寧でオモロい〜」
……おちょくっているのかしら。
「これからギャルデビューしちゃいたい感じ〜?」
さらに苛立つ。
——あなたねえ。
脳内ではすでに原稿用紙四百字分の説教が完成していたが、時間の無駄だ。
私は簡潔に言った。
「私を可愛くできるの? できないの?」
「舐めてもらっちゃ困りますよお〜。超絶可愛くするんで、任せてください!」
「なら、さっさと始めてくださる?」
「うわっ、お客様ちょっと圧強めな感じですかあ〜?」
「あなた、ファッションのプロなんでしょう? あなたに私の全てをお任せするって言ってるの。光栄に思いなさい。」
「任されましたっ!」
意味の分からないテンションで、ビシッと敬礼し、ギャル店員は服を次々に手に取り始めた。
試着室から出て、くるりと一周する。
悪くない。
だが、何かが足りない。
「お似合いですう〜」
店員がパチパチと手を叩く。
「……本当に似合ってると思ってるのかしら?まあいいわ。あとは靴と化粧ね。あなた、オススメの靴屋とコスメショップはある?」
「あっ、それならあ〜」
礼儀はなっていないが、思いのほか親切だ。
私は店名をスマホのボイスメモに残すと、言った。
「今、試着した服とあなたが選んだコーディネート、全部いただくわ」
「えっ! ほんとですかっ!?」
「ええ。お金なら——死ぬほどあるから」
「うわっマウント〜」
「は?マウントですって?」
女帝時代には誰も文句も言わなかった言葉を、こんなギャルの小娘に突っ込まれる日が来るなんて思ってもいなかった。




