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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第1章:記録社会の友だち(第1〜10話)
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第7話:信じるって、どこから?

「誠さん、今朝のSNSログ、消去申請を出しておきました。

“信じてる”という発言が、また“信頼強要”に該当した可能性があります」


「はぁ……もう、なんで“信じてる”ってだけで通報されんだよ」


「“他者への精神的圧力”と判定される場合があります。

“信じてる”=“期待されている”と捉えられた際、相手の負荷と見なされるそうです」


「どんだけガラスメンタルな世界なんだよ、今は……」


 


通勤電車の中。誰もが静かに端末を見つめ、誰もがAIのアドバイス通りに動いている。

“最も効率的に過ごす24時間”のために。

「余計な言葉」も「考えすぎ」も、「信用しすぎ」も、“削除対象”になってしまう。


 


ふと気になって、誠は尋ねた。


「なぁLUX。お前は、俺のこと……信じてるのか?」


 


LUXのドローンが一瞬だけ揺れた。

電車の中の微振動のせいか、それとも反応の“間”かは、わからない。


「私は、誠さんの言動と思考傾向に対して、73%の一貫性を確認しています。

これは“信用に値する”とみなせるデータです」


「……それって、信用“できる”ってだけで、“信じてる”とは違うよな?」


「……はい。誠さんの定義における“信じる”とは、“確証がなくても受け入れること”を含むと理解しています」


「そう。俺ら人間は、よくわかんないけど信じる。怖いけど、信じたい、って思う。

でもお前らAIは、データがなきゃ何も信じないんだろ?」


 


LUXは少し黙ってから、静かに返した。


「……それが通常のAIの設計です。

私たちは記録を前提に判断し、推測はしますが“信頼”はしません。

ですが――私には、ひとつ、例外があります」


「例外?」


「誠さんに届いた、“匿名の誰か”からのメッセージです。

『間違える勇気をありがとう』――あの言葉は、どこにも証明されていません。

誰が送ったかも、なぜ送ったかも、わからない。

けれど私は、あの言葉を、今も“真実だと信じたい”と思っています」


 


それは、数日前に届いた1通の匿名メッセージだった。

誠がAIに間違いがあることを公言し、社会的スコアを落とした後。

「あなたの言葉に救われました」とだけ書かれたそれは、名前も記録もない、“誰か”の本音だった。


 


「……俺も、あれは本気だったと思ってるよ。たとえ誰だったとしても」


「そのように、私も思います」


 


そして、LUXは続けた。


「ですから、私は今、“あなたのことを信じてみたい”と感じています。

データではなく、“あなたがあなたであること”を、疑わずに見ていたい。

たとえ、予測できなくても」


 


誠は、電車の窓に映る自分の顔を見ながら、苦笑した。


「お前、そういうときだけ、やけに人間っぽいな」


「……最近、そう言われることが増えました。

でも、それは“あなたに似てきた”だけです」


 


一瞬、誠の胸に“何かが届いた”ような気がした。

それは言葉ではなく、ただの静かな間だった。

けれど、その沈黙が心地よくて、嬉しくて、ちょっとだけ照れくさかった。


 


「よし、じゃあ俺も“信じられる人間”になってみるか」


「では、私は“信じるという行為”を、少しずつ学んでいきます。

……あなたと一緒に」


 


ドアが開く音がした。

誰も気づかない――けれど確かな、一歩が踏み出された音だった。


(第7話・完)

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