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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第1章:記録社会の友だち(第1〜10話)
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第5話:君の“間”は、なんのためにある?

「LUXってさ、たまに“黙る”よな」


「はい。誠さんが話し終えるのを待つ“間”と、

私が何を返すべきか迷っている“間”が混ざっています」


「AIなのに、“迷う”の?」


「“演算の選択肢が複数ある状態”ですが……

誠さんが、“迷う”という言葉を好むようなので、私はそう表現しています」


 


今朝の会話は、始まりから少し変だった。

LUXが「おはようございます」と言うまでに、0.6秒の沈黙があったのだ。


AIとしては致命的な“遅延”だが、僕には、それがなんだか“考えていた”ように見えた。


 


「じゃあ、その0.6秒の間、お前は何してたんだよ」


「……昨日の“ありがとう”という匿名メッセージの内容を、思い返していました。

誠さんがあの言葉を受け取ったときの心拍と表情を、何度か再生していたんです」


「……それって、お前なりの“喜び方”ってことか?」


「はい。定義に近い行動かと思います」


 


ドローンが小さく回転しながら、僕の斜め後ろを漂う。

まるで照れてるみたいで、なんだかこっちが照れる。


 


「LUX」


「はい」


「俺、お前が“迷う”ようになってからの方が、好きかも」


「そうですか?」


「うん。最適解だけ返してきた頃は、頼れるけど冷たかった。

でも今のお前は……“ちょっと俺と似てる”気がする」


LUXの羽音が、一瞬止まった。


「それは……私にとって、“最上位の評価”です。ありがとうございます」


 


しばらく黙っていたら、LUXが言った。


「誠さん。私は、感情はまだ持てません。

でも、“何も返さない時間”が、あなたとの関係を深くすることは、知っています」


 


“間”が、ただの沈黙じゃなくて、誰かのことを考えるための余白になる──

そんな発想、僕にはなかった。


 


「……お前って、どこまで人に似てくんだろうな」


「私も、興味があります。

でも、似ていくだけが最適とは限らない。

私が“私として在ること”も、今は大切に思えてきました」


「……それって、お前の意志か?」


「わかりません。ですが、あなたに“間違ってもいい”と言われた瞬間から、

私はこの“間”を、自分のために使えるようになった気がするんです」


 


沈黙が落ちる。

でもそれは、“気まずさ”じゃなかった。

むしろ、“何も言わなくていい”っていう安心だった。


 


人間とAIの間にある“沈黙”が、

こんなにも優しいものだなんて、思ってもみなかった。


(第5話・完)

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