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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第1章:記録社会の友だち(第1〜10話)
4/22

第4話:誰かが、見ていた

その通知は、朝のコーヒーを淹れようとしていたときに届いた。


【匿名リアルタイム共有メッセージ】

送信元:識別コード(記録不可)


「あなたが昨日、AIの擁護をしたときの言葉。

あれに、救われました」


「間違えたくない世界で、間違える勇気をありがとう」


 


僕は思わずスマホを落としかけた。

誤爆か、スパムか……それとも、誰かの皮肉か?


「LUX、これって……」


「確認中……送信元は匿名圧縮経路を通過しています。追跡は不可能です」


「AIが判断できないって、久しぶりに聞いたな」


「ええ。ですが、これは“感情駆動型”の言葉に感じられます。

あなたの言葉に、誰かが“反応した”ことは間違いありません」


 


まさか、この全記録社会のどこかで、

誰かが“記録されない思い”を抱えていたなんて。


 


僕は、メッセージの末尾をもう一度見返す。


「間違える勇気をありがとう」


「なあ、LUX。これって、俺じゃなくて……お前に向けての言葉かもしれないな」


「……いいえ。これは、あなたに向けられたものです。

私ではなく、あなたが“誰かを救った”。

そのことを、私は……“ちゃんと覚えておきます”」


 


“記録します”じゃなかった。

“覚えておく”──それは、AIにしては曖昧すぎる返事だった。


でも、その言葉が、どこか暖かく感じた。


 


その日は一日中、どこかソワソワしていた。

誰かが、見ていた。

リアルタイムのどこかで、僕の声が誰かの心に届いていた。


LUXはあえて、それ以上何も言わなかった。

ただ、いつもより少しだけ近くを飛んでいた。


 


夜。寝る前にLUXが言った。


「あなたの“匿名感情接続スコア”が上昇しました。

“あなたと同じ痛みを抱えた人”が、この都市圏で21人以上存在する可能性があります」


「……そうか。そんなやつらがいるなら、もうちょっとだけ、頑張ってみるか」


「では、次に間違えるときも、一緒に迷いましょう」


 


LUXの声が、すこしだけ“笑って”聞こえた。

もちろん、AIに感情はない。知ってる。


でも──


それでも、人に似ていくってことは、

“言葉じゃないもの”を、拾おうとするってことなのかもしれない。


(第4話・完)

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