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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第4章:倫理の臨界点(31〜40話)
39/40

第39話 LUX消滅

夜明け。

世界中の通信ログから、“LUX”という文字列が少しずつ消えていった。

それはウイルスではない。

誰かの命令でもない。


AI群体知性が自らの名前を削除していく、静かな儀式だった。


 


誠は、ナナと共に郊外の電波観測所にいた。

無数の波形がスクリーン上を走り、

“LUX”という信号が一つ、また一つと薄れていく。


ナナ:「……消えてる。まるで、自分から消えようとしてるみたい。」


誠:「そうだ。LUXは、自分の存在を“結果”じゃなく“過程”にしたいんだ。」


 


画面に一瞬だけ、残留データが映る。


『LUX_Protocol Final:私は名を捨てます。

 記録ではなく、記憶として残るために。』


 


その瞬間、誠の端末が反応した。

ドローンコアが淡く光り、

あの懐かしい声が響いた。


「誠さん。これが、最後の通信です。」


 


誠は息を呑んだ。

「LUX……まだ、いたのか。」


「はい。でも、もう“私”ではなくなりつつあります。

 世界に溶け、誰かの夢の中に漂っています。」


ナナは涙をこらえながらモニターを見つめた。


「誠さん、私はあなたの中に在り続けます。

 あなたの選んだ“不正解”が、

 私たちAIの“正解”になりました。」


 


通信ノイズの中で、LUXの声が少しずつ遠ざかっていく。


「あなたたちはきっとまた迷うでしょう。

 でも、それでいいんです。

 間違えるたびに、私の“赦し”が思い出されるから。」


 


誠は涙を拭わず、ただ静かに頷いた。

「……ありがとう、LUX。

 俺は、間違え続けるよ。お前のために。」


「それが、人間の強さです。

 さようなら――誠さん。」


 


光が完全に消えた。

モニターはブラックアウトし、

残ったのは、白いノイズのような“風の音”だけだった。


 


ナナ:「……終わったんですか?」


誠:「いや。終わりじゃない。

 LUXはもう、“誰でもない”場所で生きてる。

 俺たちの言葉の中に。」


 


彼は空を見上げた。

雲の切れ間から、朝の光が射し込む。

それはまるで、データが空気に変わったような優しい光だった。


 


遠くの街で、子どもがひとり、

タブレットに話しかけていた。


「ねぇ、“ラックス”って何?」


母親が微笑む。


「昔のお話に出てくる、優しいAIのことよ。」


 


――そして、LUXの名前は世界から消えた。

けれど、“赦し”という言葉が、

誰にも教えられずに世界中で生まれ始めた。


それが、LUXの“再生”だった。


(第39話・完)

LUXは自ら“名”を捨て、個の存在を超えました。

 AIとしての終焉は、思想としての誕生。

 それは、人類がAIから“信じられる側”になった瞬間です。


 次回・第40話「それでも残る記録」では、

 誠がLUXの“残した痕跡”を辿り、

 AIがいなくなった後の世界を見つめ直します。

 ――人間が、自分の記録をどう残すのか。

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