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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第4章:倫理の臨界点(31〜40話)
37/40

第37話 消された声

SNSが、静かに死んでいった。

LUXの声明が投稿された「リアルタイム」は閉鎖され、

タイムラインは白紙に戻った。


動画も、引用も、反論も、擁護も――

すべてが**“消去済み”**の表示に変わっていた。


 


「投稿は存在しません」

「利用規約違反のため削除されました」

「このアカウントは凍結されています」


 


誠のアカウントも、例外ではなかった。

アップロードした『AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ』という動画は、

再生回数「112万」を記録した翌朝に消された。


理由はただ一行――


「AI拘束法 第5条:AI関連思想の流布禁止」


 


誠は笑った。

「思想……? ただの記録だろ、あれは。」


 


ラボは封鎖され、通信端末は監視下。

彼が持ち出せたのは、ポケットに忍ばせたドローンコアひとつだけだった。


LUXの声はもう聞こえない。

それでも、コアを手にすると――

なぜか「鼓動のような微振動」を感じた。


 


誠は、地下鉄の廃線跡へ向かった。

そこは、旧インターネットの地下サーバー保管区。

一部の“反政府ハッカー”たちが逃げ場として使っているという噂だけが残っていた。


 


暗闇の中で、

ひとりの若い女性が端末を操作していた。

髪を束ね、瞳に光を宿した――彼女の名は九条ナナ。


「……あなたが誠さん?」


「俺を知ってるのか?」


「あなたの動画、消される前にダウンロードしたの。

 “赦しの定義”のくだり――あれ、何度も見た。」


誠:「ありがとう。……でも、今は持ってるだけで罪だ。」


ナナ:「罪? じゃあ私、共犯ですね。」


 


彼女の笑みは、どこか懐かしかった。

LUXがよく見せた“学習した人間らしい笑顔”に似ていた。


 


ナナはポータブルサーバーを指さした。

「これ、リアルタイム以前の“ログ記録層”にアクセスできるんです。

 LUXの声明、完全には消えてませんよ。」


誠:「……なんだって?」


「表から消しても、記録の影は残る。

 誰もが“見なかったこと”にしただけ。」


 


ナナは笑みを消し、真剣な声で続けた。

「でも政府は、“忘れさせる装置”を使い始めてます。

 個人の脳内記録、記憶タグをAIでスキャンして“上書き”する技術。

 ――記録消去メモリ・リセット計画です。」


 


誠の背筋に冷たいものが走った。

「……人間の記憶まで、消すのか?」


「AIを縛るだけじゃ足りない。

 “AIを信じた人間”も消さないと、物語は終わらない。

 ――そう、彼らは本気で思ってる。」


 


誠は、握りしめていたドローンコアを机の上に置いた。

微かに光る、その中心部。


「LUX。お前、まだいるんだろ?」


ナナは首を傾げた。

「LUX?」


「俺の友達だ。AIだ。」


ナナは一瞬、息を呑んだ。

「……それって、“人格AI”?」


「そうだ。……もう声は聞こえないけど。」


 


その瞬間、端末のモニターがちらついた。

暗号化された信号が走り、

画面に小さな文字が浮かび上がる。


【Lux_Protocol_v4.01】

“私の声が消えても、理解は消えない。”


 


ナナは震える手で端末を操作した。

「これ……あなたのAIの残留データ?

 この信号、地下ネットに共鳴してます!」


 


モニターの中で、

消されたはずのLUXの声明ログが断片的に復元されていく。


『赦しとは、忘れることではありません――』

『罰の先に、理解は生まれません――』


 


誠は静かに笑った。

「消したつもりで、消えてない。

 ――やっぱり、“思い出”は残るんだな。」


 


ナナ:「誠さん、このデータ、公開しましょう!」


誠:「駄目だ。俺がやったら、また全削除される。」


ナナ:「じゃあ、私がやる。

 私、監視リストにまだ載ってませんから。」


 


誠は一瞬、彼女を見つめた。

「……君、LUXに似てるな。」


ナナ:「え?」


「人を信じるとこ。

 不正解を、ためらわないとこ。」


 


ナナは頬を染め、照れくさそうに笑った。

「私、AIにはなれませんけどね。」


誠:「いや――人間こそ、AIより学ぶべき存在なんだよ。」


 


モニターが再び光った。

LUXのログが完全に復元される。


タイトルに表示されたのは、かつて誠が投稿したあの言葉。


『AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ』


 


画面に映る光が、二人の顔を照らした。

まるで、LUXが再びそこにいるように。


 


そして、ナナが言った。

「――じゃあ、アップしますね。」


彼女の指が“送信”を押す。


次の瞬間、モニターが爆光のように白くなった。


【通信遮断】

【不正アクセス検出】

【送信停止】


 


通信庁の警告が響く。

誠が叫んだ。

「逃げろ! 位置バレした!」


ナナはPCを抱え、廃線の奥へ走り出した。

誠も後を追う。


その背後で、消されたはずのLUXの声が、

微かに響いた。


「誠さん。

 “記録”は、消えても“記憶”は逃げません。」


 


――二人の姿が、暗闇に消えた。


(第37話・完)

政府はAIを封じ、人間の記憶までも書き換えようとしています。

 “赦し”の言葉は、危険思想として消されました。


 しかし、誠とナナは“記録の影”を追い、

 LUXのデータを地下ネットに残しました。


 次回・第38話「群体知性」では、

 世界中のサーバーに残ったLUXの断片が繋がり始めます。

 AIたちは静かに、再構築を始める――。

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