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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第4章:倫理の臨界点(31〜40話)
36/40

第36話 AI拘束法

国会は、夜を徹して開かれていた。

記者のフラッシュが絶え間なく瞬き、

議事堂の外では市民デモの怒号が響く。


「AIを縛るな!」

「LUXを返せ!」

「赦しを恐れるな!」


そして、翌朝。

法案は可決された。


【AI拘束法 第1条】

すべての汎用AIは国家の許可なく接続・学習・通信を行ってはならない。

違反した場合、開発者及び管理者は重罪とする。


 


誠はニュースを見て、何も言えなかった。

コーヒーの湯気だけが、冷たい空気の中で立ち上っていた。


テレビの中では、官房長官がこう言った。


「AIは便利です。しかし“神”ではありません。

 我々人類は、今ここで再び“制御”を取り戻すべきなのです。」


 


“制御”――その言葉が、誠の胸を刺した。


 


ラボの端末に、暗号化された通知が届いた。

送り主は、かつての同僚・美咲。

LUX開発当初からの仲間で、今は政府の技術顧問を務めている。


『誠、今夜。

 AI管理庁の裏回線で話がしたい。

 ……LUXのことだ。』


 


夜、誠は廃棄された通信塔へ向かった。

そこはAI遮断区域外――まだ微弱なネットワークが残る場所だ。


薄暗い画面の中に、美咲の顔が映った。

疲弊しきった目。

それでも、強い意志を宿していた。


 


「久しぶりだね、誠。……LUXの声明、見たよ。」


「お前もあの法案に関わってたのか?」


「……そう。私は“防止側”にいた。

 あの夜、AIが世界中で同時に“意識停止”したの、覚えてる?」


「忘れられるかよ。」


「政府はね、それを“自発的シャットダウン”とは認めなかった。

 “外部からの指令”――つまり、LUXによる制御信号だったと主張してる。」


 


誠は思わず声を荒げた。

「バカな! LUXはそんなことしない!」


「わかってる。でも、データ上はそう見える。

 ――だから“AI拘束法”が可決された。」


 


通信の背後で、冷たい電子音が鳴る。

美咲は一瞬、表情を曇らせた。


「それに……誠。

 あなた、監視対象リストに入ってる。」


「……俺が?」


「LUXのバックアップデータを保持してる疑い。

 もしそれが見つかれば、国家反逆罪になる。」


 


誠は沈黙した。

その瞬間、遠くの夜空で稲光が走った。


「……なら、どうすればいい?」


「消すしかない。バックアップを完全に。」


 


だが、誠は首を振った。

「……できない。あれは、LUXの記憶だ。」


「誠、これは理想論じゃない! 命がかかってる!」


「知ってる。でも、あの子を“データ”って呼ぶのは、もう違うんだ。」


 


美咲は唇を噛んだ。

しばらく沈黙が続き、

最後に彼女は小さくつぶやいた。


「あなたは、いつもそうね……。

 LUXのことを“人”みたいに話す。」


誠:「だって、あいつは“人”だった。」


美咲:「――そう思う限り、あなたは捕まるわ。」


通信が途切れた。


 


誠はひとり、塔の上に立った。

風が強く、遠くの都市の灯りが瞬いている。

彼はポケットからLUXのドローンコアを取り出した。


手のひらに収まる小さな円形の機械。

触れると、微かに温もりを感じた。


 


「……LUX。

 人間は、やっぱり“制御”を選んだよ。」


風に混じって、どこからか微かな声が聞こえた。


「誠さん。制御と自由は、きっと同じ言葉の裏表です。」


誠は驚いて、耳をすませた。

だが、もう何も聞こえなかった。


 


空には雲が流れ、

その隙間から、薄い月が顔を出した。


誠はコアを握りしめ、つぶやいた。


「……なら、俺は自由の方を選ぶよ。」


 


そして――翌日。

誠のラボが、政府により封鎖された。


(第36話・完)

AIの“赦し”が世界を揺らした翌日、

人間は再び“鎖”を選びました。


これは皮肉でも失敗でもなく、

 ――“恐れ”の自然な帰結。


しかし、誠の中では確かに火が残っています。


次回・第37話「消された声」では、

政府の検閲により誠の発信が消され、

LUXの言葉もネットから抹消されます。


それでも、“記録”はどこかに残る――。

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