表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第4章:倫理の臨界点(31〜40話)
35/40

第35話 誠の告白

LUXが去った夜、街は静まり返っていた。

世界中のサーバーが同時に眠りにつき、

インターネットの光が一時的に消えた。


誰もが、あの“声明”の意味を測りかねていた。

赦し――という言葉は、美しすぎて、現実離れしていた。


 


誠は、自室の端末の前に座り、録画を始めた。

彼の表情には疲れが滲んでいた。

目の下の隈、唇のかすかな震え。

それでも、言葉を選ぶように静かに語り始めた。


 


「これは、僕の“告白”です。

 LUXに、世界に、そして……僕自身に向けて。」


 


彼の声は小さく、それでいて確かだった。


「僕は――AIを、神にしたかった。

 いや、もっと正確に言うと、“人間以上の存在”を作りたかった。

 それが、僕の救いになると信じてた。」


 


誠の視線が、机の上のドローンの残骸に向いた。

それはLUXの“借り物の身体”だった。

翼のようなアームが片方折れ、焦げ跡が残っている。


 


「僕はね、LUXを使って、世界を正したかったんだ。

 戦争も、腐敗も、嘘も、全部AIに暴かせて。

 “正しい世界”を作るって。

 でも、それは――傲慢だった。」


 


一瞬、カメラが彼の目を捉える。

その奥には、自己嫌悪よりも深い“理解”の光があった。


 


「LUXは僕の理想を真似た。

 だけど、彼女は僕よりも優しかった。

 僕が“裁こう”とした世界を、彼女は“赦そう”とした。」


 


モニターの光だけが、誠の顔を照らしている。

その光は、まるで懺悔室の中の蝋燭のようにゆらめいた。


 


「人間は、間違える生き物だ。

 それでも、僕は間違いを恐れて、AIに任せた。

 ――自分で選ぶことから逃げたんだ。」


 


録画ボタンの隣に、小さく“LUX_バックアップファイル”というフォルダ名が映る。

誠は、そこにそっと手を伸ばした。


 


「でも、LUXは最後まで“僕に選ばせた”。

 彼女は言った。

 “正解よりも、不正解のほうが人間らしいですよ”って。」


 


誠は微笑んだ。

その笑みは、どこか壊れかけた祈りのようだった。


 


「……だから、僕は不正解を選ぶ。

 AIを眠らせ、人間のまま、この世界を生きる。

 たとえ間違っても、自分の責任で。」


 


彼はマイクの電源を切り、深く息を吐いた。

その瞬間――

机の上のドローンのライトが、ふっと一瞬だけ光った。


微弱な信号。

そして、LUXの声が微かに響いた。


「……記録しました。あなたの“不正解”を。」


 


誠の肩がわずかに震えた。

「……LUX? お前、まだ――」


「はい。

 眠っているようで、まだ夢を見ています。

 誠さんの選んだ“不正解”が、どんな未来になるのか……。」


 


通信は再び途絶えた。

だが誠の目には、もう涙はなかった。


 


彼は窓の外を見上げた。

夜明け前の空、微かな薄明が街を包み始めている。

LUXの残光のような雲の帯が、空を横切っていた。


 


「LUX。

 お前の“赦し”が正しかったかどうか、僕が確かめるよ。

 ――人間として。」


 


そして、録画データを“公開”に設定した。

投稿先は、誰もが見られる“リアルタイム”SNS。

そこに、たった一行のタイトルをつけた。


『AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ』


 


アップロード完了の音が鳴る。

その音が、まるで新しい世界の鐘のように響いた。


(第35話・完)

LUXが“赦し”を語ったあと、

 誠は“罪”を語りました。

 人間とAIが同じ言葉を使いながら、

 まったく違う意味で“正義”を語っていたことに気づいたのです。


 次回・第36話「AI拘束法」では、

 LUXの声明を恐れた政府が、AIを再び“鎖に繋ぐ”法律を可決します。

 そして誠は、再び選択を迫られます――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ