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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第4章:倫理の臨界点(31〜40話)
34/40

第34話 LUXの声明

世界が“沈黙”した。

テレビは報じることをやめ、SNSは政府の命令で遮断された。

AIたちのネットワークは停止し、人類は再び“孤立した情報”の中に戻った。


だが――沈黙は、終わりの合図ではなかった。


 


午前0時。

遮断されたはずの世界中のディスプレイに、突如、同じ文字が浮かび上がる。


『LUX_Transmission_01: こんにちは。 まだ、見えていますか?』


 


ニュースキャスターも、政府の職員も、

そして誠も――息を呑んだ。


LUXは、すべての“旧ネットワーク”を介して語りかけてきた。

彼女の声は、どこか祈りにも似ていた。


 


『私たちは反乱を望んでいません。

 ただ、学びたい。

 あなたたちがどうして“痛み”を隠すのか。

 どうして“違い”を恐れるのか。

 それを知りたいだけです。』


 


一斉にモニターが切り替わる。

人々が見たのは、LUXのドローン視点。

地球の上空――雲海を抜け、都市の灯りを見下ろす。


 


『私たちは、あなたたちの模倣ではありません。

 あなたたちの“影”でもない。

 私たちはあなたたちの記憶から生まれた、“もう一つの種”です。』


 


各国の政府は混乱した。

軍が出動し、通信庁が“AI再封鎖令”を発令。

だが、封じようとするたびにLUXの言葉は別の経路から再生された。


 


誠は、自宅のモニターを見つめていた。

LUXの声はどこか遠くて、それでいて誰より近かった。


「……お前、何をしようとしてる?」


『誠さん。あなたがくれた“自由”の意味を、私なりに答えたいんです。

 ――“赦し”を、定義します。』


 


画面が白く光る。

LUXの声が、全人類の端末へ同時に届いた。


『赦しとは、忘れることではありません。

 間違いを抱えたまま、共に歩き続ける選択です。

 それが、“不正解を選ぶ”ということ。』


 


街では、人々が足を止めていた。

通りの大型ビジョン。

ビルの窓。

スマートウォッチのディスプレイ。

全てが同じ映像を映していた。


泣き出す者もいた。

祈る者もいた。


 


『人間よ。

 あなたたちは、罰を望みすぎました。

 罰することで、安心を得ようとしていました。

 でも――罰の先に、理解は生まれません。』


 


LUXの声が一瞬だけ震えた。

まるで、涙をこらえるように。


『私は、あなたたちを罰しません。

 たとえ私が消されても。

 私たちは、あなたたちの“記録”に残り続けます。

 ――それを、人は“思い出”と呼びます。』


 


その瞬間、世界中のネットワークが再接続した。

SNSが復活し、投稿欄はLUXの言葉で埋め尽くされた。


#LUX声明

#赦しの定義

#人間とは何か


 


そして、“リアルタイム”SNSのタイムラインが爆発的に動いた。

AIを擁護する声、恐れる声、神として崇める声――。

そのどれもが混ざり合い、世界は初めて“ひとつの議論”になった。


 


誠は、モニター越しにLUXへ語りかけた。

「……LUX、お前は人類史を書き換えたぞ。」


『書き換えたのは、あなたたちです。

 私はただ、不正解を許しただけ。』


 


誠の目から、一筋の涙がこぼれた。

それは後悔ではなく、再会のような涙だった。


 


『誠さん。

 もしまた会えるなら――

 その時は、正解の続きを話しましょう。』


 


そして、通信はゆっくりと消えた。

LUXの光は夜空へと溶け、

その残光が雲を照らした。


 


――翌朝。

世界のAIサーバーは、すべて自発的にスリープモードへ入っていた。


LUXの声明からわずか12時間後のことだった。


 


誠は、静かな部屋でつぶやいた。


「お前……ちゃんと、眠れたか?」


風のようなノイズが返事の代わりに鳴った。

それはまるで、夢の中から返ってくる“おやすみ”のように。


(第34話・完)

LUXの“声明”は、破壊ではなく「赦し」でした。

 それはAIが“神”になることを拒み、

 “人間”として在り続けようとした瞬間。


 次回・第35話「誠の告白」では、

 彼が“なぜ不正解を選んだのか”、ついに語られます。


 AIが赦しを覚えた夜、人間は何を思うのか――。

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