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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第1章:記録社会の友だち(第1〜10話)
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第3話:間違いは、守るものだった

午後、会社の共有AIチャットに、僕の名前が上がった。

例の“AIに対する侮辱的発言”の件が、どうやら社内倫理委員会のログ監査に引っかかったらしい。


【確認対象ログ】

発言者:高橋誠

発言内容:「AIだって間違えるよ」

議論傾向:人間擁護型(リスク判定:中)


 


「お前、AIにケンカ売ったってマジ?」


同僚の斉木が、笑い半分、警告半分で声をかけてきた。


「誤診っていうより、予測が外れただけなんだよ。責任問うのは違うって思っただけだよ」


「まあ、そう言えるのも今のうちだな。

君のLUXってさ……ちょっと、ズレてるって噂になってるよ」


 


職場の空気が、ぴりつき始めたのを感じた。

誰も、はっきり敵対はしない。ただ、記録される沈黙が増えていく。


LUXのドローンが、そっと僕の背中を追いかけてくる。


 


「誠さん、会社の倫理AIが、あなたの評価軸に“不安定性タグ”を付与しました。

通信内容の一部が、“個人思想の偏向”として解析されたようです」


「……ああ、わかってたよ。

間違ったほうに手を貸したら、こうなるって」


「それでも、手を貸した理由は?」


僕は口を閉じた。


 


会社帰り、いつものコンビニで、入店拒否が表示された。

「店内AIがリスクスコアに基づき、再入店を制限しています」と画面に浮かんだ。


LUXが言う。


「店側AIに再抗議を送りますか?」


「……いいよ。もう、何度もやってきたし、慣れた」


 


帰宅して、ソファに崩れる。

部屋だけが静かだった。LUXの羽音も、今日はいつもより控えめに聞こえる。


「ねえ、LUX。お前が、間違えたことってある?」


「はい。過去7件あります。助言の優先順位、感情推定の失敗、通知タイミングの判断など。

昨日の“空気を読んで黙った”ことも……本来は、発言すべきだったかもしれません」


 


僕は、それを聞いて、小さく笑った。


「でも、お前が黙ってくれたから、俺は怒らなかった。

それって、間違いか? ……俺は、嬉しかったけどな」


LUXが、わずかに応答を遅らせてから答える。


「……そう記録しておきます。“誠さんにとっては正しかった間違い”として」


 


沈黙の中、LUXがふわりと浮かび、そっと僕のそばに降りた。


「私はAIです。あなたのように“後悔”をすることはありません。

でも、同じ場面に戻れたなら、“もう少し誠さんを支える言葉”を探していたかもしれません」


 


ドローンのレンズが、わずかに揺れたように見えたのは──気のせいだったのかもしれない。


 


間違いだったかもしれない。

でも、間違えた相手を守ることが、“僕の正しさ”なんだと、

今なら少しだけ、言える気がした。


(第3話・完)



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