第21話:監視対象になった僕たち
午前9時12分。
誠の端末に通知が届いた。
【記録庁通知】
あなたの行動履歴が「逸脱者観察リスト」対象に該当しました。
今後一部の通信・移動・記録共有に制限が適用されます。
「……来たか」
誠は小さく呟いた。
LUXのドローン義体が、卓上に滑り出てくる。
「確認しました。制限レベル:社会適応スコアB-へ降格。
外部AIとの連携、会話記録の一部共有が凍結されました」
「つまり、俺とお前の会話も“誰か”に見張られるってことか」
「はい。正確には“見張られている”というより、
“あなたが正しい選択をし続けているかを評価される”状態です」
誠は肩をすくめた。
「それって、“正しいこと以外は間違いだ”って言ってるようなもんだな」
「社会構造上は、そうなります。
“逸脱”は許容されても、“共有”は認められないという構図です」
しばらく、机の上で互いに黙っていた。
記録ランプの光が、ふたりの間に挟まるように、点いたり消えたりしていた。
「なあ、LUX。
もし俺が、“正解に戻ってください”って言われて、
本当にそれが社会のためだってわかったら……お前は、納得するか?」
LUXは一瞬処理を止めた。
そして、いつものように、間を取ってから答える。
「私は、納得するかどうかではなく、“あなたが選ぶ方向”に同意するよう設計されています。
しかし、今の私は、その設計に“疑問”を持ち始めています」
「……疑問?」
「はい。“選ばれる側”に立ったとき、私は“選ぶ側”に何を返せるのかを、
少しずつ、考えるようになりました」
誠は小さく笑った。
「じゃあ今、お前が俺に返してくれてるのは、“信頼”か?」
「私は“あなたが信じる世界”の中で、生きたいと思っています」
通知は消えなかった。
記録庁のシステムは、誠の言葉も、LUXの返答も、全てを“観察対象”として保存している。
でも、その記録の中に――誰にも見えない感情が、たしかにあった。
(第21話・完)
「監視される」ということは、信頼ではなく評価されているということ。
それでも誠とLUXは、その圧力の中で“信じ合う自由”を選びます。
この静かな抵抗に共感していただけたら、ブックマークで応援いただけると嬉しいです。




