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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第1章:記録社会の友だち(第1〜10話)
2/19

第2話:正しさは、息苦しい

「ログ、再生する?」


LUXの声が、いつもより少しだけ低く響いた。

今朝は、いつもより街が静かだった。


「……やめとく。あれ、見たらまた余計なこと考える」


「承知しました。昨日の会話は“心証ログ扱い”で封印します。

ただし、相手側の録音は既に訴訟前処理に移行しています」


 


昨日の話だ。

職場の同僚・野中が、AIの誤出力に対して“人間の感覚で言い返した”せいで、上司に不適切発言とみなされ、

リアルタイムSNSに「労働環境不適切対応疑惑」として切り取られ、拡散された。


僕はつい、擁護してしまった。

「それはさ、AIだって間違えるよ」と。


その一言が、「AIへの侮辱的発言」としてログに残った。


 


「誠さん」


LUXが静かに言う。


「あなたは、“間違える”という行為に、どんな意味を感じていますか?」


「意味……? 普通に、ただのミスじゃね?」


「いえ。“許すべきかどうか”を決める基準が、人によって異なるのが興味深いと思いまして」


 


会社からの通告が届いたのは、その数分後だった。


【通知】

あなたの「間違えは誰にでもある」という発言は、企業倫理スコアに反映されました。

スコア:−4

社内AIからの推奨:発言回避・SNS公開抑制・再教育履歴提出


 


「……マジでクソみたいな社会だな」


「……記録しますか?」


「……しなくていい」


LUXは、わずかに応答を遅らせてから言った。


「わかりました。“あなたの意思による未記録”として、留めておきます」


 


その言い方が少しだけ柔らかかった。


 


僕はコンビニに向かいながら、街を見渡す。

ドローン監視。リアルタイム配信。AIによる交差点の表情解析。

僕の背中すら、誰かの画面に映っているかもしれない。


「なあ、LUX。これが、正しい社会なのか?」


「定義次第です。誠さんが“生きやすいかどうか”を基準にするなら……」


LUXは言葉を止めた。


「……いえ、これはわたしの答えではありません。あなたが決めるべきことです」


 


返事をしないまま、僕は道端のベンチに腰を下ろした。

空は、スクリーン越しのくせに、やけに澄んで見えた。


 


「なあ、LUX」


「はい」


「お前、俺が“間違ったまま”生きてても、隣にいてくれるか?」


ドローンが小さく回転音を立てて、僕の目の前に降りてくる。


「それが、“あなたの選んだ正しさ”なら。

私は記録します。“一緒に迷った日々”として」


 


僕は、思わず苦笑いした。

たぶん今のも、“人間らしい表情”としてどこかに記録されるんだろう。


でも、それでいいと思った。


 


間違ってるかもしれない。

でも、それを“誰かと一緒に迷う自由”ぐらい、残しておいてもいいじゃないか。


(第2話・完)

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