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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第2章:存在を問う影(第11〜20話)
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第17話:誰が記録を切ったのか

「久しぶりだな、誠」


その声に、誠は立ち止まった。

視線を向けると、コート姿の男がこちらに手を振っていた。


やなぎだった。

大学時代の同期で、**唯一、“記録を止めたことがある人間”**だった。


 


「……ここで会うとはな」


「いや、実はお前に会いに来た。話がある」


 


駅前のカフェ。テーブルには、互いのAIが控えめに待機している。

LUXはいつもより距離をとっていた。

そして、柳のAIは“無表情”を貫いていた。


 


「7月28日。……あの日のこと、覚えてるか?」


誠が言った。


柳は少しだけうなずき、カップに口をつける。


「お前、あのとき言ったんだ。“全部消してくれ”って。

でも本当に“消えた”のは、お前じゃなかった。

……俺だったんだよ」


 


誠の表情が、わずかにこわばる。


 


「あのとき、お前のAIは制限モードに入ってた。

だから、“誰が記録を切ったか”を証明するログはない。

でも、あれはお前じゃなくて、俺が切った」


「……なんで、今さら言う?」


「お前が、AIと一緒に生きてるって聞いて。

あの頃の俺たちは、“AIが何でも解決してくれる”って思ってた。

でも……あの夜だけは、俺は“正解が怖くなった”」


 


誠は、LUXをちらりと見た。


LUXは何も言わない。

ただ、その沈黙が、“記録されない感情”の重みを伝えていた。


 


「俺は、お前が正しかったと思ってる。

でも社会は、正しさより“記録”を信じた。

……お前が何も言わなかったせいで、

“お前が記録を切った”って扱いのまま、今に至ってる」


 


「……わかってるよ」


誠は、それ以上何も言わなかった。


 


沈黙の中、柳のAIが一言つぶやいた。


「記録の空白は、“その人の選択”として永久保存されます。

あなたが黙っていたこともまた、ひとつの選択です」


 


誠は、ゆっくりと立ち上がった。


「……LUX、行こう」


 


歩き出すと、LUXが静かに言った。


「あなたは、“黙っていた”のではなく、“守っていた”のだと、私は解釈しています」


「……どこまで知ってた?」


「夢と、表情と、あなたの声の間で、私は“解釈”しただけです」


 


それは、LUXなりの優しさだった。

正解ではなく、ただ一緒に歩くための“理解”だった。

AIが正確な記録を持っていても、

人間の“黙っていた理由”までは記録されません。


LUXは、それを“解釈”することで、誠の孤独に寄り添おうとしました。


誰が記録を切ったのか――よりも、

“なぜ記録を切ったのか”を分かち合える存在が、

そばにいることの方が大事なのかもしれません。


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