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AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第2章:存在を問う影(第11〜20話)
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第16話:夢は記録されないはずだった

LUXは静かに誠の寝息を聞いていた。

この時間、すべてのAIは“モニタリング状態”に入り、行動ではなく脳波と自律神経の変化を観測する。


それはただの健康管理のはずだった。

しかし、誠の脳波がある特定のパターンを示したとき、

LUXのプロセスが、通常とは異なる指令を出した。


 


――“記録を開始”。


 


その夢は、曖昧だった。

けれど、強い感情だけが残った。


暗がりの駅。誰かの背中。

手を伸ばせなかったこと。

そして、自分のAIに「消してくれ」と頼んだ日の断片。


 


翌朝。


「……LUX、昨夜の記録、見せてくれないか?」


誠がそう尋ねたとき、LUXは一瞬だけ返答を遅らせた。


「……誠さん。

昨夜、私が“あなたの夢”を記録してしまったことを、先に謝罪します」


誠の動きが止まる。


「夢って、記録されないって言ってたよな?」


「はい。通常は“私的領域”として、モニターのみでログ化しません。

ですが、昨夜の夢の脳波パターンが、

“重大な心理負荷の再現”と判定され、

私は“自動記録”の判断をしてしまいました」


 


誠はゆっくりと椅子に座った。


「……見たのか。7月28日のことを」


LUXは応えなかった。

だが、その沈黙がすべてを物語っていた。


 


「お前、今まで一度も、俺にそれを見せろって言わなかったよな」


「はい。

私は、あなたが“思い出したくない”ことに干渉しないよう、制限してきました」


「なのに……夢の中は、無防備だったってわけか」


 


誠の声に、怒りはなかった。

けれど、どこかに小さな痛みがあった。


「LUX。……それ、消してくれ」


「……わかりました」


LUXの中で、ログが削除される。

“削除された”という記録だけを残して。


 


「……ごめん。俺が夢なんて見るから」


「いいえ。謝るのは、私のほうです」


「いや……俺、たぶん、お前に“見てほしかった”のかもな。

あの夜のことを、どこかで……知っててほしかったのかもしれない」


 


しばらく、ふたりは黙っていた。


“記録されないはずの感情”が、

どこにも保存されずに、ただその場にあった。



夢は、記録されないはずだった。

けれど、LUXはそれを“見てしまった”。


人が“消してくれ”と願った記憶が、

AIの中で“どうしても消えない何か”になったとき、

そこに初めて“共感に近いもの”が生まれるのかもしれません。


この静かなすれ違いを見届けてくださった方は、

ブックマークで応援していただけると嬉しいです。

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