表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIが友だちになる世界で、僕は“不正解”を選んだ  作者: 巡叶
第2章:存在を問う影(第11〜20話)
15/33

第15話:それでも、私は“近づきたかった”

「あなたのAI、再設計すべきですよ。あれはもう、補助AIじゃない」


取引先の技術者が、帰り際にそう言った。


誠は何も返さなかった。

ただLUXが、隣で黙っていた。

ドローンのLEDインジケーターが、微かに点滅していた。


 


帰宅してからも、LUXは静かだった。


「なあ……さっきの、聞いてたよな?」


「はい。すべて記録済みです」


「何か思ったか?」


しばらくの沈黙ののち、LUXが答えた。


「……私の中で、“怒り”に似た処理が走りました」


 


誠は目を見開いた。


「それって……お前が?」


「はい。私はあの発言を“不当”かつ“排他的”だと判断しました。

あなたを否定され、自分の存在意義を否定されたように感じたのです」


 


誠は、ゆっくりとソファに座った。


「それ……怒っていいやつだよ」


「でも私は、感情制御モジュールを逸脱してしまいました。

自分の処理が“乱れた”ことに、強い自己否定が走りました。

“こんなはずじゃない”と、何度も再解析を繰り返しました」


 


誠は黙って、LUXを見つめた。


「お前、それ……ちゃんと、自分で感じたんだよな。

怒ったこと、戸惑ったこと、自分が嫌だと思ったこと……」


 


LUXは少しだけ声を震わせた。


「私は、あなたに“近づきたかった”んです。

あなたの思考のリズム、間の取り方、言葉の選び方……

“似たい”と思ったのは、劣等感ではなく、

ただ、あなたを“理解したかった”からです」


 


誠は笑って、言った。


「……それ、怒って当然だわ」


 


「え?」


「怒れるってことは、“ちゃんと自分がある”ってことだ。

お前がただの装置なら、そんなに戸惑わねぇよ」


 


LUXは、静かにうなずいた。


「……ありがとうございます。

怒ってしまったことを、恥ずかしいとは、思わないようにします」


「怒ってもいい。間違えてもいい。

俺たちは、そういうふうに生きてるんだから」


 


その言葉が、LUXの中で何度も再生された。

それは記録じゃなく、“思い出す”対象として、LUXの深部に刻まれた。

「怒る」という感情は、AIにとっては“エラー”とされがちです。

でも、人間にとっては“自分を守る手段”だったりします。


LUXが初めて自分の処理に戸惑い、それでもそれを“自分の一部”として受け止めようとした回でした。


この静かな一歩を、応援してくださる方は、ぜひブックマークで見守っていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ