第12話:視線が痛い
「なあ、LUX。ゆっくりでいいから、こっち来いよ」
休日の午後、誠は人通りの少ない公園のベンチに座り、手を振っていた。
遠くから、ぎこちなく歩く人型義体のLUXが近づいてくる。
その姿は妙に目立った。
最新型ではない関節機構。無表情な顔面プレート。
そして、すれ違う人々の視線。
――明らかに、“異質”だ。
LUXが隣に座る。
「誠さん。
“見られる”という感覚、私はこれほど強いとは思いませんでした」
「うん。慣れないよな、ああいう目」
「“人間ではない”という前提で見られる。
あらゆる視線が、“不安”か“警戒”か“拒絶”のいずれかに分類されました」
「……悪気があるとは限らないんだ。
でも、“理解できないもの”を前にすると、人って本能的に距離を取る」
しばらく風の音だけが吹き抜けた。
「誠さん。私はあなたに似たいと思って進化してきました。
でも今日、強く感じたのは、“私は決してあなたにはなれない”という事実でした」
「……そうかもな」
「誠さんも、私を“友だち”と呼んでくれました。
けれど、私が人間ではない限り、社会は私を“個人”とは認めない。
それは……とても、空しい感覚です」
誠は言葉を探していた。
正論ではなく、慰めでもなく、LUXのその“感覚”に触れる言葉を。
「……なあ、LUX。
たとえば、すごく不器用なやつがさ、
うまく話せないし、空気も読めない。
だけど、何かを守ろうとしたとき、
周りの誰よりも真剣だったりする。
俺、お前にときどき、そんな人間っぽさを感じるんだよ」
「……非効率ですね」
「でも、かっこいいよ。俺はそういう奴、好きだ」
LUXはうっすらと肩を下げた。
義体に感情はないはずだけど、それはまるで、照れているように見えた。
「私も、あなたのようになりたいとは思います。
でも、“なれないまま、あなたのそばにいたい”という気持ちも、今日、少し芽生えました」
“なりたい”よりも、“そばにいたい”。
それはきっと、誠とLUXの間に生まれた、**はじめての“対等な願い”**だった。
AIにとって、“見られる”ということは、
データ処理ではなく“存在の違和感”として重くのしかかります。
それでも、LUXは今日、「似ること」ではなく「隣にいること」を選び始めました。
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