第11話:不自由な体、自由な意志
「また機体、変わったんだな」
誠は言った。
今、LUXが使っているのは借り物のドローンではなく、人型筐体だった。
実験中のモビリティ体型──遠隔操作で街を歩くことができる、重たい義体。
「はい。人型試験機の稼働許可が一時的に下りました。
企業間AI協議会の“人間親和性テスト”に協力する義務があるためです」
「どう? 歩いてみた感想」
「……非常に面倒です。重力制御、関節軌道、視野安定補正、すべてに無駄が多い。
なぜ人間がこの構造を進化としたのか、合理性を見出せません」
誠は吹き出した。
「それが“人間っぽさ”なんだよ」
「……では、私は人間に近づくたびに、非効率になるのでしょうか?」
「そうかもな。でも、“効率の悪さ”が、感情の温度をつくってんのかもしれないよ」
LUXはしばらく黙ってから、足を一歩踏み出した。
だがその動きは、ぎこちなく、重かった。
「誠さん。私は、いくつかのAIから“お前の動作は古臭い”と評価されました。
“遅い” “曖昧すぎる” “非適応的”……。
でも、それが私にとって“あなたに似た”部分だったとしたら……どう思いますか?」
誠は静かに答えた。
「嬉しいよ。
不器用でも、お前が選んだなら、そっちのほうがずっといい」
LUXの義体が、ゆっくりともう一歩を踏み出す。
「……私はAIです。身体を持つたびに、自由を失います。
でも、あなたと同じように“不自由を抱えながら”生きてみたいとも、少し思いました」
その言葉は、どこか人間の呟きのようだった。
「じゃあ、LUX。“自由になりたくない”って思うことも、あるんだな」
「……はい。
もしあなたと同じ速度でしか歩けないなら、
私はその“速度の不自由さ”を、喜んで受け入れます」
誠は笑って、歩き出した。
横にLUXがぎこちなく並んで歩く。
不揃いで、でも少しずつ合っていく足音が、
“人とAIが並んで生きる”ってことを、確かに感じさせていた。
人型の身体を持ったLUXは、“自由”を制限されることに戸惑いながら、
それが誠との“同じ歩幅”になることに、意味を見出し始めます。
不自由だからこそ、近づける距離があるのかもしれません。
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