第九十三話 「宿敵を葬るために」
「はぁ……」
誰もいない施設内で一人ため息をつく者がいた。
「騎渦さぁ、あとどれくらい時間かかりそう?」
「もうじき終わるからそこで待ってろ。いくら俺でも作品を全て修復するのには時間がかかるんだぞ」
疲れ切った騎渦の声が空気に消えていく。
「できることなら年が明ける前に行動を起こしたいんだけど」
ため息を吐いた者___想決がそう言うと騎渦は手を止めて振り返った。
「お前は何をそんなに急いでる。別に急がずとも間に合うと言っていたじゃないか」
「確かにそうだよ。次の好機が訪れるまで入念に準備するのでも構わない。でもそれだといつになるかわからないし、もう二度と訪れないかもしれない。だから今やるんだよ」
「たかが賄賂を送るだけだろ?少しぐらい期限を遅らせてくれると嬉しいんだが」
騎渦の言葉を聞くと、急に想決の表情が変わった。
そして彼は右腕を鋭い矛のように変形させ、それを騎渦へと向けた。
「ただ賄賂を送るだけ……だと?君はただ機械とにらめっこしてるだけだから僕が裏で何をしてるかまるでわかっていないようだね……!」
「それは俺のセリフだ。お前の方こそ、俺が機械と向き合うだけでなく他に何をしてるのかまるでわかっていないようだな」
想決は刃を騎渦に近づけ、冷たく低い声で挑発した。
「言うね。僕とやる気?」
騎渦は自分の周囲と想決の背後に化け物を召喚した。
空気はピリピリし始め、今にも戦闘が起こってもおかしくないほどだ。
「フン……冗談も通じないのか」
想決は右腕を引っ込めると、騎渦に背を向けて棚の方へ歩いて行った。
「お前だと本当にやりかねないからな」
騎渦も召喚した化け物を引っ込ませた。
想決は棚から一冊のファイルを取り出し、パラパラとページを捲った。
「あそこに侵入するのはそんな簡単なことじゃない。ましてやあの警備をくぐった後に制御室まで行ってシステムをハッキングするなんて至難の業……」
彼は探していたページを見つけると、その見開きを「バン!」と叩いた。
机に置かれた表面張力ギリギリに注がれたコーヒーが揺れで零れ、カップに沿って流れて机に溜まりを作った。
「だからこそ、この機を逃すわけにはいかない。警備全体が賄賂を受け取ってくれるような人間で構成されるのは極めて稀だ。一人でも裏切ったり正義感が勝つような気色悪いヤツがいては、僕の計画は全ておじゃんになってしまう!」
「わかった。わかったから静かにしてくれ」
◇(時は流れて正月……)
想決は真顔で激昂していた。
今にも血を噴き出して憤死しそうなほどにキレていた。
それもそのはず。せっかく警備に色々と手配していたのに結局騎渦の準備が間に合わなかったがために、行動を起こせなかったからだ。
彼は髪をかきむしって部屋を飛び出した。
「騎渦ァ!!!」
廊下に響き渡るほど叫び、それをかき消すほどの足音を出しながら騎渦の部屋へ向かった。
そして怒りのままに扉を蹴破った。
「想決か。あと少しだから待ってくれ」
「もう我慢できない。今すぐに終わらせろ。さもなくば、この場でこの部屋ごとお前を切り刻む」
「それは冗談か?」
至って冷静な騎渦を見て、想決は頭が少し沸騰した。
無言のまま右腕を矛に変形させ、それと同時に目にも留まらない速度で騎渦の髪を切り落とした。
「早くやれ。あと一週間だけやる」
想決は言うだけ言って部屋を後にした。
「黄月さえ押さえれば確実に神村を排除できる……そうしたら他のSランク隊員や脅威になり得る戦力を効率的に削げるはずだ……ッ!」
想決は黄月と姜椰が任務などで一緒に行動しているのは知っていた。
目障りである姜椰を消そうにも、黄月がいたのではそれも難しい。しかし黄月は機械だ。国に管理されているのなら、そのシステムを乗っ取ればこちらのもの。
別に乗っ取れなくてもシステムを破壊すれば、修復するまでの間は黄月は金属の人形同然になる。
「新年早々やることが多いな。今年も忙しくなりそうだ」
想決は不気味な笑みを浮かべた。
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