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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第九十二話 「あの二人は何を?」

俺と申奏はクリスマスデートの日から毎日頻繁に連絡を取り合うようになり、通話する時や二人で一緒に過ごす時間に比例して笑い合う回数も増えてきた。


今までも夜遅くまで通話したりすることが二回くらいあったが、あの時の俺は彼女の気持ちがわからなかったために少し引き気味で話していたが、恋人として話してみると味わったことが無い新鮮な感じがした。


通話を閉じ、真っ暗になったスマホの液晶を見る度に思う。

今この画面の向こうにいた人は、俺を愛してくれる人で、俺が愛したいと思える人なんだと。


 ◇


そして正月、俺と申奏は初詣に行く約束をしていた。

待ち合わせの場所__刻曜神社(こくようじんじゃ)に到着すると、すでに大勢の参拝客がいた。


刻曜神社は『日本最古の神社』と言われ、仏教が伝えられる遥か昔から存在すると噂されている謎多き神社だ。日本最古の宗教とも言われる『神道』の原型ができた頃にはすでに相当な歴史を持っていたとされている。

日本では世界に名を轟かせるほどのパワースポットとして囁かれ、年中参拝客が絶えない。


俺も去年の正月に母親とここを訪れた。

私立受験が近づいていたこともあり、都立の受験祈願も兼ねて精一杯お願いした記憶がある。


 ◇


今日からちょうど一年前__。


「私立の対策はちゃんとできてるの?」

「まあ……多分いけると思う。過去問も全部の年度はやったし……うん、多分いける」

うんざりするほど聞いた母親からの進捗調査。ただでさえ勉強でストレスが溜まっているというのに、こんなしつこく聞かれたのではこちらも頭に来る。


受験なんて余裕なのに、どこか抜けてるのではないかと不安にさらされるあの胸騒ぎときたら。

上へ行けばいくほど簡単なミスが致命的な傷になる。一を二にするのと、九十九を百にするというのは増えた値は同じでも、値の本質は全然違うのだ。


俺は少し不機嫌そうな顔で参拝を終えて、母親と一緒におみくじを引いた。

「あら……アタシは大吉だったわ。そっちはなんだった?」

母親はにこやかに聞いてきた。


(たかが人が作った紙切れで何を浮かれてんだよ……)


俺がおみくじを開けると、そこには「末吉」と書かれていた。

「末吉か……けっこう微妙だな」

「吉ならよかったじゃない。アタシなんて五年連続で凶だったことがあったんだから」

「聞いてない」


おみくじに書かれた文に目を通した。

(波乱万丈な年になる。人生において大きな転機が訪れ、選択次第では将来が大きく変わるので気をつけるべし。そんなあなたを導く色は黒……)


 ◇


「懐かしいな……あの人も今は何をしてるんだろうか」

俺は久しぶりに母親の存在を思い出したが、その瞬間に受験後の嫌な記憶が蘇り、すぐに頭から消した。

申奏が来ないので適当に辺りを見渡していた。


(あの二人……どこかで見たことがあるな……)


俺は見覚えのある姿を視界に捉えた。

毛先がほんのり水色で全体は儚い白色の髪の少女と、紫色の髪を靡かせている男が立っていた。

二人はこちらに顔を見せていないが、漂ってくる異質な雰囲気でなんとなくわかる。


おそらく冬野時雨(ふゆのしぐれ)神楽坂紫影(かぐらざかしえい)だろう。

こうして姿を見るのは久しぶりな気がする。


時雨とは夏休みの旅行以来、一切会話していないしそもそも彼女の姿を見ることも無かった。

神楽坂(あの人)に関しては、まず会話したことが一度も無い。誰かから彼の話を聞いたことも無い。

第一印象は「ロン毛でキモい」だった彼だが、こんなところで何をしているのだろうか。


二人は俺の存在には気づいていないようだ。

これだけ人がいるのだから、むしろ気づける方が異常な気もするが。

「あの二人に接点があったなんて意外だなぁ」

「まったくだ……ん⁉」

俺は咄嗟に隣へ目をやった。


背丈の小さい少女が笑っている。

「弥生か。急に真横に出て来られると心臓に悪いぞ」

「姜ちゃんがあの二人に夢中だったから揶揄ってみたかっただけ。あれ?姜ちゃんは初詣しないのか?」

「ああいや……申奏を待ってる。ここで待ち合わせしてるから」

そう言うと弥生の目は一瞬だけ揺れたように見えた。

「申ちゃんか。それじゃあ私が邪魔になっちゃうな……わかった、また後でな!」

弥生は元気よく手を振りながら人混みの中に消えていった。


(気を遣わせちゃったか……)


それから数分後、俺は申奏と合流した。

生活感溢れる素朴な私服だった。着飾ってない彼女もまた魅力的だ。


他愛もない会話をしながら参拝客の列に並んだ。

肌寒い風が強く吹きつける。彼女のポニーテールの毛先が風に踊らされていた。

「冬休みの課題やった?」

「一応手はつけた。あとは英語と国語のワークだけ」

「英国のワークってどっちも結構な量あるよ?しかも姜椰は夏休みの課題の分もあるだろうし……」

「……答え写しても時間かかりそうだな」


列で待つこと二十分後__。


「お賽銭入れてと……」

姜椰と申奏はお金を投げ入れ、本坪鈴をガランガランと鳴らし、願い事など一通り済ませた。


「姜椰のお願い事は何?」

申奏が姜椰に問う。すると姜椰は彼女の目を見るのではなく、どこか遠くの空を漠然と見つめた。

「全てがうまくいきますように……って言った」

「おお。なんかすごく欲張ったね」

「俺は謙虚でいられるほど余裕があるわけじゃない。だから叶えたい望みは全てお願いしたんだ」

「なるほど……ちなみに私のお願いは姜椰と一緒にいる時間ができるだけ増えますように、だよ」

「それは神様じゃなくて……俺が叶える……」

「ホント?そう言ってくれるてすごく嬉しいよ」

姜椰がドキッとして目を見開いたが、すぐに元に戻ってしまった。


「ふふっ。今年もよろしくね?」

「俺の方こそ。これからもずっと隣にいてほしい」

二人はそのまま話しながら神社を後にした。


帰り道、俺はあることを思い出した。

「おみくじ引くの忘れてた」

「私達ならどうせ大吉だよ。こんなに幸せなんだからさ」

「それもそうだな」

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