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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第九十話 「罪に染まる体」

ARLでの任務から六日後、養成高校にて__。


「最近、小林君も見なくなったね」

二人で机を寄せてお昼ご飯を食べていた時、申奏はそう言い出した。

「言われてみればそうだな」


(アイツは今川さんに殺された……なんて余計なことは言わない方がいいよな。このまま真実は闇の中に投げ捨てよう……)


俺は購買で買った弁当のゴミを教室のゴミ箱に捨てて席に戻った。

「そういえば私さ、一昨日の任務で……」


「アンタたちホントに仲良しね。いつもここにいるから探すのに苦労しなくて助かるわ」

俺の後ろに月海がいた。

「いつから……⁉」

驚いたのか、申奏はパスタを頬張ったまま固まっていた。

「フッ……!リスみたいな顔して……っ!」

「……くっ!」

月海も俺も彼女のリス顔に我慢できなくて吹き出してしまった。


申奏は頬を上下に動かし、ようやく飲み込むと元の美しい顔立ちに戻った。

「そんなに私の顔が面白かった?」

「もう一度やってみれば……?」

月海が手鏡を差し出す。

姜椰は腹筋が痙攣するほどツボにハマり、机に突っ伏したまま肩を震わせていた。


「ん……」

彼女はまたパスタを頬張った。

そして手鏡を自分の方に向けた。

「んん……」


「神村、神村。ほら」

月海が姜椰を起こして申奏の方を向かせる。

すっと申奏が手鏡をどかすとまん丸顔のリスが顔を覗かせた。

「……ッ!!」

姜椰は声を上げることなく突っ伏し、机を五、六回ほど叩いた。


 ◇


「っはぁ……ところで、月海は何しに来たんだ?俺のことを探してると言ってなかったか?」

月海はハッとしたように口を押さえた。

「しまった……アタシとしたことが完全に忘れてたわ。昇降口で黄月が待ってるからなるべく早く行って。それじゃ」

「ああ、わかった」

彼女は教室を出る時にこちらへ小さく手を振った。


「それじゃあ、ちょっと行ってくる」

「うん」


階段を下りて昇降口に着いた。

「あっ」

外には雨宿りしている黄月の姿があった。

「……おや、遅かったですね。何かありましたか」

「すみません。ちょっと用事が立て込んでいたので……それで用件とはなんですか?」

黄月は急に深刻そうな顔になった。

「先日のARLでの出来事なのですが、総隊長の方に報告したところ、第二、第四研究室の依頼はしていなかったそうです。総隊長はその二つの部屋が使われていないことを知っていたそうで、今川殿が報告書を提出した際に不審に思われたそうで……」


「つまり……」

「総隊長から今川殿へ依頼をする際の書類を改竄した者がいる……ということです」

俺は小声で黄月に言った。

「待ってください。そんな重要な情報をこんなところで喋っては……!」

「大丈夫です。今半径百メートル内に人間、および盗聴器類の装置はありません」

「それならいいんですが……」

「それと小林……彼が連れ去ったと思われる生徒たちですが、先日の潜入任務の際に神村殿が戦ったヴァリァサーが彼らだと思われます」

「……は?」

軽い衝撃が頭を揺さぶった。


(あの時俺が倒したのが……連れ去られた生徒たちだと……⁉)


「ちなみに……なんでそれがわかったんですか?」

俺がおそるおそる聞くと黄月が懐から透明な袋を取り出した。

中には養成高校の学生証がいくつも入っていた。

「これは私が第三研究室に入った時、実験を記録していた引き出しにしまわれていたものです。これらを一早く処分せずにいたのは謎のままですが……」

「そ、そうですか……!」

俺は人殺しをしてしまったような気分になり、少し吐き気がした。


「あまりご自分を追い詰めないでください。彼らをあのままヴァリァサーとして生かすよりも、殺して楽にしてしまった方がいいという考え方もできますから」

「……そうですよね。俺は……助けてあげたから……」

「まあ落ち着いてください。何もそう確定したわけではありませんから」

黄月は取り繕ったが、すでに姜椰には届いていなかった。

「……とりあえず俺は戻ります。帰り道、お気をつけて……」

姜椰の顔色は会った時に比べてかなり悪くなっていた。

誰もいない昇降口で彼は呟いた。

「冷酷そうな貴方にも……(なさけ)がありましたか」


黄月は地面を見つめながら養成高校を後にした。

「人とは……よくわからないものですね」


 ◇


時は姜椰一行がARLを脱出した後まで遡る___。


想決は研究所の廊下を走っていた。

(騎渦がやられたのは玄関の近くだったか……?)

彼が現場に到着すると騎渦が血を流して倒れていた。

騎渦の乗っていた黒馬は塵になり、セイエイが作り出した結晶も塵を化していた。


「あと一歩……というわけでもなさそうだね。神村を相手に、ここまでボコボコにされてるようでは……」

「う……あぁ……」

騎渦の手が震えながらも持ち上がる。

「まさか生きてるとは……ずいぶんとしぶといね」

想決はしゃがみ、騎渦の髪を掴んだ。

「はな……せ……」

騎渦の手が弱弱しく想決の手首を掴んだ。

しかしあまりにも弱すぎて、掴むというよりかは乗せるに近かった。


「君さ、怒り狂うのは構わないけど、ちゃんと彼らの始末(やるべきこと)はしてくれないと困るよ。こんなに役立たずの手下率いてこの有様じゃあさ……」

想決はそこらを徘徊する化け物に左手を横に一振りした。

するとその延長上にいた化け物は真っ二つになり、血をまき散らしながら地面に倒れていった。

「ほら、役立たずでしょ?やっぱ飼い主に似るのかなぁ……」


「まあいいか。まだ君は殺さないでおくよ。大した失敗ではないし、ここで君に死なれると僕が後々困るから」

想決は騎渦に手を差し伸べるわけでもなく、自分の研究部屋へと戻っていった。

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