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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第八十八話 「窮鼠猫を噛み殺す」

「相棒!どうやってコイツを倒すんだよ!」

二人は攻撃を躱しながら作戦を練った。

「今考えてる!」


第二研究室は割と広い。

突っ立ったまま攻撃を繰り出す部屋の主から距離を置いていれば、攻撃は避けるのは容易かった。

ただ唯一の懸念点は……。


この部屋にある床や壁だ。


床に着地すれば、その瞬間に弾かれてバランスを崩す。天井にぶつかれば床に叩きつけられそうになり、壁に行くとまた吹っ飛ばされる。

そしてバランスを崩したところに電灯や機械の部品などが高速で襲ってくる。

それを避けるために動くとまた床に弾かれる。


姜椰は完全に悪循環に陥り、成す術無く動き回っていた。


「上手く近づけない……!つくづく面倒な能力だ……!」

「……ッ!相棒、僕にいい案があるぞ」

セイエイは姜椰の耳元で内容を呟いた。

「__ここからだと届かない気がするが」

「そこは気合でどうにかしてくれよ。なんのために足があるんだ」

「本気で言ってるのか」

姜椰は少し面倒そうな顔をして部屋の主へ走った。


「誰だ……私の部屋で暴れる愚か者は……ッ!」

部屋の主が恨めしそうに呟く。

その間に姜椰はヤツとの距離をグッと縮め、剣を振り翳した。

「あの時計が壊れるよりも早く……お前を始末しよう……!」


姜椰が力強く床を踏んだ時、また床が捲れて足を取られた。

(コイツ……自分のいる床は捲れないように器用に動かしやがって……!これでは作戦通りに進めない!)


「……だがその攻撃にはもう慣れた。昔からバランス感覚は良い方だからな!」

捲れる床を上手く蹴り、姜椰は宙を舞った。

すると部屋の主が顔を上げて姜椰を睨んだ。そして静かに手をこちらに翳した。

「弄ばれて死ね___」


「……?」

視界がブレる。何が起こったのか把握しようとしている間に俺の体が前へ吹っ飛ばされた。

俺は冷静に『加速』を使用し、ゆっくりと動く景色を眺めながら前にある壁に身構えた。


パァーン!!!!!!!!!


「⁉」

前にある壁が目にも留まらない速さで俺を叩き落した。

俺は『加速』を過信していたあまり、一切反応することができず地面に叩きつけられた。

しかも着地する時に左肘が変な方向に曲がってしまい、とんでもない激痛に襲われた。


(『加速』でさえ目で追えないほどの速さだと……⁉)


「あ゛ぐ……ッ!」

この十六年間で最も歯を食いしばった瞬間だった。

気づけば左腕が痺れて感覚が鈍り、痛みがさらにくっきりと伝わり始めた。

「だ、大丈夫か⁉肘が……ッ!」

セイエイから焦りの声がかけられる。


「やはり油断はするべきじゃない。今までの俺は、自分の能力を使えば敵の攻撃なんて当たるはずが無いと高を括っていたが……」

俺はゆっくりと立ち上がり、左腕を動かさないように体に密着させた。

「絶対は絶対に無い……か」


姜椰は電撃剣を握りしめ、部屋の主を見た。

すると何故か笑みが零れた。

「フハハハハハハッ!」

「あ、相棒⁉どうしたんだ、急に……」

いきなり爆笑し始めた姜椰を見てセイエイが何事かと困惑し始めた。

「ハハハハハハハハハ!!!!!!」


螺旋に編まれた適性の才能。

食らったことのない痛みがその扉をこじ開けてくる。


体が力を受け入れる……そうして俺は「新世界」へと足を踏み入れるのだ。

「俺はもっと速くなれる……この世の全てをそこに置き去りにできるッ!」

姜椰の視界に進路が浮き出る。

誰にも覆せない、勝利が確定した道が__!


「見えるッ!今の俺には、お前に勝つビジョンがはっきりと見えるぞッ!」

姜椰は思いっきり姿勢を低くし、剣を構える。

(『加速』……上限解放ッ!)


部屋の主は、床を捲るなり装置などを姜椰のいるところへ集中させた。

「主人公補正でもかかったのか……?だが今のお前ではこの距離を詰めるには__」

集められた物体は一点に収束し、姜椰の姿は消えた。

「__その程度の速さではかなり困難だろうな……」


部屋の主が勝利を確信した時、右目の視界が無くなると同時にズルリと首が落ちた。

「何……だと……⁉」

「お前のおかげで俺はさらなる世界に羽ばたけた。そのことだけは感謝してやる」

「私が……この部屋の中で負けるとは……!」

部屋の主が消滅すると、今までそこにあった機械や棚などが幻想かのように消えた。

そして天井が崩れ始めた。

「ま、まずいぞ!戦いの衝撃で天井が崩れてきてるぞ!」

「急ぐ必要は無い。この部屋はすでに死んだ」

「死んだ……?どういう意味だ……」


その時、天井だった物体が床に「ベチャッ」と音を立てて落ちた。

「アイツはこの部屋に棲みつく化け物ではなく、この部屋を構成する全てがヤツ本体だったんだ。だから主が死ねば部屋も崩壊するという理屈だ」

瞬く間に部屋は崩れ去り、一面の夜空が空の端に現れた。

「またあの入り口から入るのか」

俺が振り返ると研究所の壁が吹き抜けていた。

「まさか建物と隣接する壁までもがコイツのものだったとはな。……逆にそうでなければ扉を隠せるわけがないか」


俺は電撃剣を鞘にしまい、月海たちを探しに行った。

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