第八十六話 「閉ざされた箱」
「だから行くなと言ったのに……」
想決は防犯カメラから小林の死を見届けた。
「つくづく頭が悪いというか……いや、あれはどれだけ強力な能力を与えても負けていただろうね」
彼はパソコンをいじり、防犯カメラの映像を巻き戻した。
「小林本人は理解できていなかったみたいだね。今川晴斗の矢の秘密を……」
映像の中で一瞬だけ今川の姿がブレた。
「この瞬間、彼は高速で移動しながら矢を放ち、あたかも遠くから矢が飛んできたように思わせて小林を動揺させていただけ。彼レベルの適性が無いとできない技だけど、別に見切れない速さではないし、単に小林が弱かっただけかな」
想決はパソコンの電源を落とした。
「はぁ……中途半端な強弱者こそ力を求めたがる。それが己の身を亡ぼすというのに……」
彼はスマホを取り出し、誰かに電話をかけた。
「……もしもし、騎渦?」
「なんだ。今から寝るところなんだが」
「ははは、君の作品が全部殺されたようだけど?」
想決が笑いながら言うと騎渦は黙り込んだ。
「それは本当か……?」
「間違いないよ。侵入者の一人が綺麗に燃やしたみたいだ」
「……そうか」
それだけ言い残して電話を切られた。
スマホを机の上に置き、想決はため息をついた。
「あの姿は黄月かな……?騎渦を怒らせるなんて愚かなことをしたものだ」
◇
今川の案内に従い、第二研究室に入った。
「第二研究室は昔こそまともに使われていたらしいけど、今は倉庫として荷物置きにされているらしい。何があるかわからないから変に触らないようにしてくれ」
その部屋の中には見たことも無いような機械類と、無造作に積み上げられた段ボールの山があった。
第一研究室と比べるとかなり荒れており、人の出入りは少ないようと見える。
「ここは……ヴァリァスの実験場だったのか……?」
俺は並べられた装置を次々に眺めながら全体を歩き回った。
ガバッ…………
「ん……?」
後ろから微かな音が聞こえて俺は振り返った。
しかし誰もいなかった。
天井も見上げてみたが、電気が点滅している電灯しかなかった。
「……気のせいか」
「何してるのよ、勝手に歩き回らないでくれる?」
「あぁ……」
「さ、戻るわよ」
俺は月海の首に黒い模様が伸び始めているのが見えた。
「……」
時は遡ること五ヵ月前__。
申奏の体に似たような黒い模様が発現したことがあった。
全身に激痛が走り、起き上がることすら出来ないほどの発作__「拒絶反応」。
「拒絶反応」が起きる条件はいくつもあるが、その中でもよくあるのが「適性超過」と「急性過負荷」。
「適性超過」は、自身の適性の上限を超えたヴァリァスの量が蓄積されると体が限界を迎えて「拒絶反応」が起きる。ヴァリァス内に長時間いるか、低適性の人間がなりやすく、症状が改善するまで半日から二日ほどかかる。
「急性過負荷」は、短時間に大量のヴァリァスが蓄積されることで起こる。こちらはSランク隊員などの高適性の人間でも起こる可能性が高く、症状が重篤になりやすい。その代わりに改善するまでの時間は「適性超過」より短い。
あの時の申奏はおそらく前者のパターンだった。
月海は申奏より適性が高いとしてももしかしたら先程の小林との戦いでヴァリァスを食らってしまったのかもしれない。
「月海!」
俺は彼女に駆け寄った。
「……何」
「体に何か異常は無いか?」
すると月海は体を適当に動かした。
屈伸、伸び、両手をグーパーグーパー……。
「……別に平気よ。どこも痛くないわ」
「……そうか。それならいいんだが」
俺は平気そうな彼女を見てもまだ不安を拭いきれなかった。
(すでに模様が口まで届いてる……。これが「拒絶反応」だったとして、おそらく彼女がコレを経験するのは初めてじゃないはず。だからそんなに余裕そうなのか……?)
確かに見ての通り彼女には目立つ異変は無い。
だが小林と戦っている時に何度か爆発を食らっていたはず。もしあれがヴァリァスなら……。
(考えてみれば爆発を至近距離で受けてあれだけ無傷なのはおかしい。いくら月海とはいえ傷の一つや二つくらいはできていてもおかしくはない。いや、できている方が自然だ)
「もう少し様子を見るか……」
俺はその件を保留にした。
ガバッ!!!
「!」
また聞こえてきた謎の音に俺は振り向かせられた。
「セイエイ、聞こえたか……?」
「確実になにかがいるな」
俺は確信した。近くにいるのは人以外の生物であると。
やはりさっきの物音は空耳ではなかった。
どうやら俺はこの部屋の主を呼び起こしてしまったらしい。
「まずいな……装置を壊したりして足を残したくはないというのに」
ヌゥ……
すぐ後ろに何かがいる。
「⁉」
俺は背後に強烈な寒気が走った。
すぐさま我に返り、そのなにかと距離を置くと同時に剣を抜いた。
「っはぁはぁ……!」
荒い呼吸が落ち着かない。
今だけは多動症のようだ。
汗がエアコンの冷気で冷やされて、それに伴って体表の熱を持ってかれるような異常な寒気だった。
これまでの、全身の血が逆流しそうなほどの恐怖を感じたのは人生で初めてだ。
「キサマ……何者ダ……?」
そのなにかは言葉を話し始めた。カタコトと言われればそうかもしれないが、問題無く聞き取ることはできる不思議な話し方だ。
「俺は……ヴァリァス特殊部隊だ。お前こそ何者だ?さっきから俺をからかっていたようだが」
「ソンナツモリハ無カッタ……」
人型の化け物はブリッジの体勢から二足歩行に切り替えた。
「私ハコノ部屋ニ住ンデイル。名前ハモウ忘レタ……」
「俺の敵か?」
電撃剣の電源を入れ、剣をしっかりと握りなおした。
「違ウ。私ハ、タダココニ住ミ着イテイル……所謂妖怪ノヨウナモノダ……」
その化け物は近くの段ボールを畳み始めた。
会話はできるのに行動が異質なあまり、彼の話が頭に入ってこない。
「お前はここで生まれたのか?」
彼は段ボールを畳みながら静かに頷いた。
「……そ、そうか。じゃあ俺はここら辺で失礼する……」
ちょっと……かなり不気味さを感じた俺は半ばドン引きするようにその場を去った。
(アイツはあの時第一研究室前にいた正体不明のなにかだったようだな。四つん這いになった時のフォームが似ていたし……)
俺は出口に向かった。
(出口……ここにあったよな?というか今川さんたちはどこだ?)
出口があったはずのところが白い壁に変わっていた。
ものすごい胸騒ぎがしてきた。
俺は部屋内をドタバタと走り回って三人を探したが、一向に見つからなかった。
スタ……スタ……スタ……
後ろからゆっくりと足音が近づいてくる。
「……やってくれたな」
ジロリとヤツを睨みつける。
彼は段ボールを片手に歩み寄って来ていた。
「0QDT"DzQBSW"FUE……&J%F0QDQAK0UITTzQKQ"TO……」
彼は意味不明な言語らしき音声を発した。
俺は確信した。コイツはヴァリァサーなんかじゃない。
化け物として人類に歯向かうために生まれてきたのだと。
「&J%KUTJKSB_~F……0QDKUTJT"T0LI}TzQ……」
「……日本語すら話せなくなったか。まあいい、会話する必要すらなくなったからな!」
俺は電撃剣を抜き、部屋の主に斬りかかった。
◇
「次は第三研究室だ。思ったより時間が余ってるから少し時間をかけて見てみたい」
「いいんじゃないの?アタシはまた中でフラフラしてるわ」
「別に構わないけど、またトラブルには巻き込まれないでくれよ?」
今川が皮肉交じりに言うと月海は腕を組んで彼を睨みつけた。
「何、嫌味?」
「さあ?」
その後ろで姜椰(化け物)は歩いていた。
彼は静かに剣に手をかける。
今、目の前にいる三人の背は隙だらけだ。奇襲すれば反応は遅れるだろう。
「B_R……!」
姜椰に成りすました化け物の両目が赤く光った。
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