第八話 「個性派揃い」
四月下旬、俺のスマホにある通知が入っていた。
見てみると総隊長から会いたいという旨のものだった。
(明日の午前九時に本部に集合か……)
バックレようかな__。
翌日、俺は気づけば本部の扉のとこまで来ていた。とりあえず隊服を着た状態でやってきたわけだが、
建物内から漏れ出るオーラみたいなのが俺を妨げていた。
企業が使ってそうな普通のビルじゃなくて明らかに頑丈そうでセキュリティも厳しそうな施設だった。
緊急時のために電撃剣は持ってきたが、ここにいる人間には武器という武器が全て効かないような気がした。
(とりあえず入るか……)
自動ドアをくぐり、中に入ると見張りの隊員が俺の行く手を阻んだ。
「隊員証と武器をこちらへ」
俺が武器を渡すともう一人がそそくさと武器を持って行ってしまった。
「隊員証はお返しします……こちらへどうぞ」
どこからか案内役の隊員が現れ、エレベーターに乗せられ、ボタンを押して降りていった。
先にエレベーターに巨体の男が乗っていて、後ろから威圧を感じつつも指定された階に着いた。
エレベーターのドアが開く。エレベーターを降りると上品な香りが漂ってきた。
右左見ても扉は右前方に一つしかなかった。
(誰か最後まで案内してくれればいいものを……)
最上階に一人取り残され、思考停止していると部屋の扉が開いて誰かが出てきた。
その男は二十代前半のような容姿をしていて、白い隊服を着ていた。俺はその人が幹部であることと
直感的に察し、浅くお辞儀をした。
男はにこやかに口を開いた。
「待っていたよ。君が神村姜椰……で合ってる?」
頷くと俺は部屋に案内された。
部屋の中は廊下よりも暗く、辛うじて廊下の明かりで誰か人がいることがわかるぐらいだった。
「神村のお出ましだ!」
その瞬間、物音がした。反射的に『加速』を発動させて向かってくる人間を見定めた。
今は扉が開いてるせいで光を反射する数で目の数、即ち人間の数がわかる。
(いきなり子供相手に襲い掛かるか……?しょうがないからコイツを盾に……)
だが、若い男は背後から消えていた。おまけに扉が閉まったせいで光が無くなり、敵の場所を把握できなくなった。
とりあえず全速力でその場を逃げると部屋の電気が点いた。
瞳孔が急いで閉まる中、俺は扉の方を見た。すると俺がいたところに別の幹部らしき人たちが武器を持って立っていた。
(新人の歓迎会にしては物騒過ぎやしないか……?)
すると白髪の爺さんが困惑したような声で言った。
「ふむ。塵にしてしまったわい」
「ちげぇぞ、俺が塵にしたんだ。手柄を取んじゃねぇ」
塵にもなってないし、そんなガチになって殺しにかかんなくてもいいだろうに。
やっぱ上層部は頭がイカれてやがる。俺が何をしたと言うんだ。
そこに電気を点けたさっきの若い男が二人を諭した。
「ハハハハ!二人とも、彼はあそこにいるよ」
俺の方を指さした。攻撃が当たらなかったことが悔しかったのか、二人とも血相を変えて再度襲い掛かった。
「次はどうじゃ!」
「次はどうかな!」
さっきの能力発動で息切れしていた俺は攻撃を避けられず、ぐしゃっという音を立てて潰された。
部屋には俺の体から溢れ出たトマトスープが床を赤く染めた。
こうして俺の青春は幕を閉じたのだった。ちゃんちゃん__。
ってそんなわけあるか!
実際は若い男が俺の前に立ちはだかり、お遊戯は終わった。三人とも席に着くと一人の男が立ちあがった。
「うちの仲間が物騒なことをしてしまった。あれでも歓迎の意思を示しているから、許してやってくれないか」
「わ、わかりました……」
俺が立ち上がると、彼は椅子を引き出して俺に座るよう促した。部屋の全体像を見渡してわかったが、この部屋は無駄に広い。広々とした部屋に聳え立つ表面の輝いた机。
そこに置かれた椅子に座る傑物たち。この場にいる全員からは雰囲気だけでも圧倒的強者を感じた。
すると俺に椅子を差し出した男が立ち上がった。
「さて、全員揃ったことから自己紹介でもしようか。彼も知らない人たちに襲われて緊張しているだろうからね」
(緊張よりも恐怖なんですが……)
「まず私から挨拶しよう。私はこのヴァリァス特殊部隊総隊長の相田俊之だ。いつも我が息子が世話になっている」
「はい……(この前宣戦布告されたんですけどね)」
「そしてここにいるのはSランク部隊のトップクラスの実力者、十番隊までの隊長が勢ぞろいしている。
番号順に紹介していくと……」
相田パパはペラペラと書類を捲った。
すると彼は自分の隣に座っている人から順に説明していった。
「まず彼が一番隊隊長の宮坂試練だ。挑戦することが嫌いらしい」
少し若いイケおじみたいな容姿をしている。タバコを咥えながらそこらを歩いていても違和感はない。
「その隣が二番隊隊長、神楽坂紫影。端的に言えばナルシストだ」
俗にいうロン毛男。でも顔はかなりイケメンな方だ、悔しいが認めざるを得ない。
「で、三番隊隊長の月海津波。海で泳いだことは無い」
特に掴みどころが無さそうな人だった。特徴で言うと、ショートの青髪だってことぐらいか。
彼女は俺と目が合うと、ギロッと睨みを利かせた。
(怖っ……)
「さっき君を殺そうとしたその男は四番隊隊長の墓庭龍。ちなみにドラゴンは好きじゃない」
不良みたいな学ランの着方をして、右肩に金属バットを抱えている。
(怖っ……)
「そして君を廊下で出迎えたその男は五番隊隊長の今川晴斗。好きな天気は雨で、しょっちゅう雨で濡れている自分を鏡で見てうっとりと見惚れているらしい……」
「総隊長、ご冗談はほどほどにしてくださいよ」
今川は苦笑いして言った。
こんなキモさ前回の行動をしているが、それを打ち消すほどモテそうな好青年だった。俺が女だったら間違いなく惚れてる。
「そして床で寝ている子は冬野時雨。六番隊隊長だ。体力を温存するために四六時中寝ているらしい」
(どいつもこいつもイカれてる……。しかも今の今まで存在に気づかなかったし)
うつ伏せで寝ているせいで顔は見えないが、比較的まともそうな人だった。
「で、さっき同じく君を殺そうとした老人が七番隊隊長である前野佐代斗。この部隊の最年長だ」
(唯一まともな人間?が来たな……でも殺そうとしたんだからイカれてるのに変わりはないか)
俺が目を向けると穏やかに茶を啜っていた。
「その隣が八番隊隊長の黄月輝。好きな星は常に輝く太陽らしい」
この人もこの人で掴みどころがなさそうな外見だった。
相田パパが話を続けようとした時、一人の少女が俺の前に現れた。しかも机に土足で上がってる。
「私が九番隊隊長、城城弥生。ちなみに城のことは全く知らない。せいぜい大阪城っていう城が日本に存在することぐらいかな。まあ、場所はわからないんだけど!」
「大阪城なんだから大阪にあるんじゃないか……?」
「わかってるよ、そんなこと!」
彼女は俺の顔面目掛けて足を下ろしたが、机の上で滑ってしまって俺に抱きつく形になってしまった。
「ううっ……まだ誰にも抱きしめられたこと無いのに……!」
目の前で泣き始め、部屋を出ていった。静かになった部屋で俺は呟いた。
「俺も抱きしめられたこと無いけどな」
「ッ!!!」
今川が爆笑した……ような気がした。
相田パパは咳ばらいをして、言葉を続けた。
「えっと……十番隊隊長の如月蒼花。見て通り、他人に興味が湧かない人だが実力は確かだ」
彼女は頭にヘッドホンをかけていて、こちらを見向きもしなかった。
「最後に、ソロSランク筆頭の臣桜申奏だ。入隊してから半年ぐらいでSランクになった才能の塊だよ」
(こいつだけまともそうだ……)
「どうだね、実際に幹部たちに会ってみた感想は?」
相田パパは俺に無茶ぶりをしてきた。俺は素直に思ったことを口にした。
「名は体を表すという言葉のいい反例だと思います……」
彼は笑った後、俺にも自己紹介を求めた。おそらく、皆は書類ですでに知っているのだろうが形だけでもやっておくという考えだろう。
「Dランクの神村姜椰です。十一年前に両親が離婚して先日母親が家にすら帰って来なくなりました。
養成高校に入った理由は親と進学のことで揉めた時にスカウトされて親の反対を振り切ったからです。
友達いない歴=年齢というぼっちの方程式が成り立つことを人生を以て証明している最中です。初めて隊で取り組んだ任務では仲間全員が目の前で真っ二つにされて自分も左手と左足に怪我をしました。
それから……」
「重いからそれ以上言わなくて大丈夫だよ」
今川がストップをかけた。
「……わかりました」
こうして場にいた全員の自己紹介は終わった。皆個性が暴れ回っていたが、根は良い人だらけと断言することはできた。とはいえ、俺にとって荷が重い連中であることに変わりはなかった。
だが、それで全て終わったわけじゃなく俺は理由も告げられず、一行は地下室まで向かったのだった。
(なんで皆少し嬉しそうなんだ……?)
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