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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第八十二話 「焼却処分」

「うっ……⁉」

今川は階段を下りながら鼻をつまんだ。

階段を下りきると床には液体が広がっていた。二人はそれを踏んだ感触で初めて床に大量の液体があるとわかった。

「まさかこの臭い……血か?神村たちが戦った後のようだけど……」

「彼らはあの通路で先に進んだようですね。二人分の靴の痕が続いています」

「転がっているのは狼か?しかも腹部を食いちぎられてる……!」

「共喰いしたか或いは二人以外の何者かの仕業でしょう。どのみち急がなくては二人の身が危険です」

「二人とも無事であってほしいが……」


 ◇


一方、その頃__。


俺と月海は騎渦に案内されるままに

「二人とも歩くのが早いわよ……!」

「普通じゃないか?」

大して歩いていないのに月海は苦しそうだった。

息切れはしていない、ただ何かに苦しめられているように見える。

俺は踵を返して彼女の様子を伺った。

「……どうかしたのか?どこか怪我でもしたのか?」

「大丈夫よ……ただアンタたちが歩くのが早すぎるだけよ……ッ!」


二人が足を止めている間にも騎渦はとぼとぼと歩いて行く。

「そうか、なら行くぞ。アイツに置いていかれたら困る」

姜椰は小走りで騎渦の後を追った。


それから歩いて間もなくして扉が見えてきた。

病院にある集中治療室くらいの大きさの扉だ。

騎渦はその扉に手をかけ、「ギィ……」と金属製の扉特有の鈍い音を奏でた。

「ここが出口だ。施錠するから早く出ろ」

俺達が出ると扉を閉めて鍵を回した。

そしてドアノブを握って少し引き、施錠されていることを確認すると俺達のことをじっと見つめた。

「お前らは何しにここに来た?」


「アンタには関係無いわ」

月海は冷たく言い返した。

「想決には気をつけることだ。お前らの存在はすでに想決(ヤツ)に気づかれてるだろうからな」

その名を聞いて俺達は固まった。

まるで脳内に電流が走ったかのようだ。

「お前も想決の差し金か」

俺は剣先を騎渦に向けた。

騎渦はそれでも眉一つ動かさず、俺の目だけをじっと見つめた。


彼の目は真っ暗で淀んでいる。

あまり長時間見ているとその中に引きずり込まれそうだ。

「私は……ここで働く研究者に過ぎない。想決の味方でもなければ、お前らの味方でもない。私はただここで自分の研究に打ち込みたいだけ……」

騎渦は疲れが溜まっているのか、言葉の最後を息を吐くように言い切りどこかへ去ってしまった。


「とりあえず助かったわね……」

「今川さんたちと合流しないとな」

「一応ここまで一本道だったから、逆に引き返せば第一研究室まで戻れそうよ。……うっ」

月海は変な呻き声を上げた。

「やっぱりさっきから変だな。何かされたのか?」

「な、なんでもない。余計なお世話よ」

「そうか……なら……!」

俺は彼女の両肩に手を置いた。

彼女は困惑したような顔でこちらを見た。


コツン__


俺は彼女の左足を優しく蹴った。

「う゛ッ⁉」

月海の足首に激痛が迸る。

彼女はあまりの痛みに涙目になって床に崩れ落ちた。

「い……ッ!アンタよくも……ッ!!」

俺は彼女の足を見ながら言った。

「さっき階段を転げ落ちた時か、化け物の死体を踏んだ時に足首を捻ったんじゃないか?歩くときも左足を少し引き摺るように歩いていたし、俺の歩く速度に追い付けないのも納得がいく」

「だ、だからって蹴らなくても……!」

彼女は俺を見上げた。


涙が浮かぶ彼女の目は死にかけのウサギの目に似ている。

「何度も聞いたのにお前が教えてくれなかったから確かめたんだ。戦闘中に発覚でもしたらさらに面倒なことになりかねない。誰であっても怪我人は足手纏いになるからな」

すると彼女は気分を害されたのか、少し声を荒げて言った。

「足手纏い……もし言ったらアンタにそう言われそうだったから言いたくなかったの!それにアタシなら足首を捻ってもアンタよりは戦力になれ……」


コツン__


もう一度左足を優しく蹴った。

「ッ!!!!!」

彼女は左足を守るように丸まった。来ている隊服のせいでダンゴムシのように見えてくる。

「戦力になれ……?その続きは何て言うつもりなんだ?」

「く……っ!サイコパスでもここまで酷くはないわよ!」

俺は無言で右足を少しだけ引いた。

それを見ただけで彼女は俺の次の動作がわかったのか、俺のローブを引っ張った。

「も、もうやめて!アタシが悪かったから……もう蹴らないで!」

彼女はニ度目の激痛に耐えながら必死に訴えた。

俺も鬼じゃない。流石に三回目をいくつもりは無かった。


「あぁっ……」

彼女は息を吐きながら呻き声を漏らした。

さっき二回も蹴って彼女の反応を思い出すと、俺の中に眠る嗜虐心が刺激されたのか三回目の反応をみたくなってしまった。


彼女は今も苦しみ悶えている。


あれだけ優しく蹴ったのにこれだけ痛がるのなら、本気で蹴ったらどんな反応をするだろうか。

彼女の想定に反して何の前触れも無く、俺が彼女の左足を蹴ったらどんな反応をするだろうか。


完全に安心しきっている彼女の顔はどんな風に歪むんだ___?


(ダメだ!それだけは死んでも抑えなくては……ッ!)

実行を目指す列車に理性が急ブレーキをかけた。

辛うじて悲劇の結末を見ることはなく、列車は停止した。


「だ、大丈夫?アンタもさっきから様子が変よ……?」

「なんでもない。今後のことを少し考えていただけだ……」


月海が落ち着くまで待った。

ようやく呻き声を上げることも無くなり、ただ左足首の周りを優しくさすっている。

「立てそうか?」

「誰かさんのせいで厳しそうだわ」

「……何か棒状のものはあるか?」

「そんなもの無いわよ」

「……!」

俺は左腕にある蒼電剣を彼女の左足に巻き付けた。

元々左腕に装備する時に使っていたベルトでしっかりと固定し、少し様子を見た。


すると月海は俺の足を軽く叩いた。

「アタシの手当てをしてくれるのは構わないけど、剣をここに使ったらアンタはどうやって戦うつもり?」

俺は腰に手を当てた。

「俺の電撃剣はここにある。今お前に巻いたのは別の剣だ」

「アンタも二刀流だったとは……少し意外だわ」

「別に二刀流だからってわけじゃない。ただ持ち歩いてるだけだ」

「変わってるわね」


 ◇


「こんな得体の知れない化け物が大量にいるとは……」

「やはりARLの行っている研究は私達の想像を絶するほど過激なものなのでしょう。全て遺伝子改造されて異形に成り果てたように見えます」

檻に入れられた化け物は全てピクリとも動かないが、明らかに生きているように見える。


首が二つあるウルフ、サイズが桁外れのゴキブリ、鎌が六つ生えているカマキリ__。


現実離れしていて見るだけで頭を静かに揺さぶられるような感覚に襲われる。

「神村たちが戦った痕跡は無さそうだけど……」

「もう少し進んで出口が見つからなかった場合は天井を破壊しますので問題ありません」

「問題だらけだよ。潜入の意味が無くなるって……」


ガチャーン___!!!!


激しい金属音が静かな空間に鳴り響いた。

「何だッ⁉」

今川と黄月は衝撃の光景を目にした。


檻が全て開いている___ッ!!!


タイミングよく目覚めた化け物がぞろぞろと外に出てくる。

揃いも揃って殺気剥き出しで今川たちを睨みつけた。

「意外と数が多いな……!」

「今川殿に接近戦は不向きでしょう。私がやりますのであなたはお下がりください」

黄月の腕が半分に割れると中から剣が出てきた。

黄月が戦闘態勢に移行している間に、今川は災絶に矢をつがえた。

「僕もできるだけ支援するよ」

「気持ちは嬉しいですが、あくまでも自身を最優先でお願いします」


黄月は化け物を的確に処理していった。

しかしどれだけ倒しても奥から無限に湧いて出てくる化け物に黄月は効率の悪さを覚えた。

「いっそのこと彼らを一体の化け物に集約して相手した方が楽ですね」

彼は右腕を元の形に戻した。

「黄月……まさかあれをやるつもりじゃ……!」

「今川殿は耳を塞いでください」


鼓膜が破れても責任は負いかねますので___!!!!



黄月が両手を化け物に向けた。

「まずいッ!」

今川ができるだけ後ろに下がり、耳を塞いで伏せる。

次の瞬間に轟音が絶叫を上げた。檻から解放された化け物は肉体からも解放されてしまった。


爆発音が消えると視界にいた化け物は全て塵となって消えていた。

黄月は煙が出る両手を握っては放してを繰り返した。

「少し火力調整に失敗したようです」

「僕が老人になる頃には難聴で何も聞こえなくなっているだろうね」


天井に大穴が開き、上の部屋の様子が丸見えになった。

真っ暗でほとんど見えないが今川はその穴をじっと見つめていた。

試しに矢を一発撃った。当然手応えなんてあるわけない。

「今川殿、行きますよ」

「……ああ」

二人は通路の奥の方へ走っていった。


「なんてヤツだ。この暗さで俺の気配に気づくとは……!」

小林は壁に刺さった矢を引き抜いた。

そして拳を握りしめると矢はあっさり折れてしまった。

「報告通り四人か。だがまずは神村の方から潰すッ!」


小林はその場から姿を晦ました。

ご愛読ありがとうございます!

この作品が気に入った方はブックマークや☆5をつけてくれると嬉しいです!

初心者なので酷い文章力ですが、感想などもお気軽に書いていってください!

偶数日に投稿するつもりなので、チェックの方よろしくお願いいたします!

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