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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第八十話 「ARL潜入作戦、決行」

12月13日土曜日、午後十時半過ぎ__。


四人の人影が『ARL』に近づいていた。

『ARL』がすぐ近くまで見えてくると今川さんは足を止めた。

「全員止まって。突入する前に人数確認と作戦を伝えるから」


今回のチームに携わるのは、今川晴斗、神村姜椰、黄月輝、月海津波の四人。

全員隊服を着て完全に武装していた。


「寒いわね……早く中に入りたいわ」

「施設内も暖房は効いてないと思います」

黄月が冷静に返した。

「余計なおしゃべりはやめてくれ。セキュリティに気づかれると面倒だ」


今川は災絶の弦を何回か弾いた。

「……セキュリティは反応しないみたいだ。よし、まずは今回の作戦を細かに教える。まずここは研究室が四個あって、それらを全部回ろうと思う」

「一人に一室割り振るつもり?」

「僕らは戦闘慣れしてるから大丈夫だろうけど、君ら子供を一人で動かすわけにはいかないよ。僕らの手の届くところにいてもらわないと」

「フン……なめられたものね」


 ◇


「全員はぐれないようについてきて」

今川さんは懐中電灯もつけずに暗闇の中を進んでいく。

俺たちはいつでも戦闘できるように武器に手をかけて後ろについた。


少し歩いて施設の外壁に辿り着いた。

「正面玄関から入るんですか?」

「変に窓から入るよりはこっちの方が安全ですから」

黄月は慣れた手つきでドアロックを解除した。


ガラスのドアを開けて中に入った。

ドアが閉まる音が反響した後、重く冷たい空気が足に纏わりついた。

「寒いわね……」

月海は体をぶるぶる震わせていた。


「誰が殿をしますか?」

俺は三人に聞いた。

「言い出したアンタがやりなさいよ」

「俺が背を守れると思うのか?」

腕を組んで言う月海に俺は胸を張って言い返した。

「何を誇らしげに言ってるのよ……じゃアタシがやるわ。はぁ……頼りないんだから」


そうして四人は果てしなく続く廊下を進んだ。

「何も見えませんね……」

俺が喋った瞬間、今川さんは俺の口の前に手を翳した。

「しっ、そこに誰かいる」

「……」


暗闇で四足歩行の生物らしき何かが動いていた。

その何かは俺達に気づくことなく過ぎ去った。

「今川さん、さっきの化け物は一体……?」

「僕もわからないけど、この施設の産物といったところだろうね」

黄月が手の先から一直線の光を出し、一つの表札を照らした。

「あれを調べるのは後にしましょう。第一研究室はすぐそこです」

「よし、二人は近くを警戒してくれ」

「了解」


 ◇


今川一行がARLに侵入したと同刻__。


「まさか本当に来るとはね」

モニターを見ながら想決は電撃剣の刃を手入れしていた。

「神村姜椰までいるのか……」

想決の後ろにいる小林は武器を構えて席を立った。

「小林、今日はやめておいた方が身のためだよ。相手にはSランク上位の今川、黄月、月海がいるんだ。君なんかじゃまともに戦えないよ」

想決がコーヒーカップを口に運びながら忠告した。


それに小林は不服そうに質問した。

「……月海と神村であればどうだ?」

「どうだろうね。人数が減っても月海は脅威だけど……自信があるのなら行ってきてもいいよ。死んでも責任は取らないけど」

「そうか、お前のヴァリァサーを借りるぞ」

小林は部屋を出て行ってしまった。


「はぁ……君のそういうところだけは嫌いなんだよ」


 ◇


四人は第一研究室に入り、黄月と今川が作業をし始めた。

「暇ね」

「いい機会だ。俺も少し見て回ろう」

「アンタが見たところで何がわかるのよ……」


俺は持って来たライトで机を照らした。

第一研究室は研究室と言いつつもただの経理だった。施設の金の動きだとか、職員の出張費とかが書かれている紙がパソコンの前に置かれている。

(特に有益な情報は無さそうだな……)


「お前は何を見てるんだ?」

「適当に歩いてるだけよ。こんなところまで来て見たいものなんて無いわ」

「……それにしても殺風景な壁だな。汚れが一切無いのも不気味だ」

「からくり屋敷とかでは、こんな風に壁を押すと向こう側に行けるのよね」

月海は壁に触れた。当然、壁に動きは無かった。

「大丈夫そうね」

「見た目も普通の壁だしな……」

俺も壁に体重をかけた。


ガコン___。


壁が回り、月海はバランスを崩して階段を転げ落ちた。

俺はすぐに態勢を立て直したおかげで彼女の二の舞になることはなかった。

「月海ッ!」

声は暗闇に溶けた。


下は暗すぎて彼女がどこまで落ちたのかすらわからなかった。

(月海が怪我してなければいいんだが……)


俺は電池の切れかけた微弱な光を使って階段を下りた。

弱い白色光も真っ暗な空間では希望そのものだった。

「大丈夫か?」

階段を下りると月海が靴の先を地面にコンコンと当てていた。

「余計なことしないでくれる……⁉せっかくまとまって行動してたのに分断されたじゃない」

彼女は隊服をバサバサとはたいてホコリを払った。

「俺もからくりがあるとは夢にも思わなかったんだ。すまない」

「……謝らなくていいわ。というか、なんで階段を下りたのよ。あのまま戻って助けを呼べばよかったじゃない」

「お前を一人にしておくと有事があった時に誰もお前を助けられないだろ。俺の護衛を任されたんなら、なおさら俺から離れないでくれ」

「ッ……フンッ!!!」

「なんで不貞腐れる……?」

「と、とりあえず戻るわよ。ライト貸してくれる?」

俺は周囲に何かの気配を感じ取った。

「……戻るのは厳しそうだが」


月海の背後に赤い点が大量に浮かび上がった。

まるで獲物を狙うハイエナのようだ。

「……化け物のようね。全部片づけるわよ」

「薄暗くて視界が悪いな……俺だけは斬らないように注意してくれ」

「知らないわよ。嫌ならアタシに近づかなければいいわ」

二人は剣を構えた。

ハイエナがじりじりと接近してくる。


冷たい空気が俺の肌をチクチクと刺した感じがした。

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