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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第七十九話 「外白内黒」

翌日の早朝、俺は病院のベッドで目覚めた。

そして午後になって月海が容態を見に来た。

「お前は怪我せずに済んだのか」

「アンタがアタシの首を掴んで投げたから!というか、なんでアタシを庇ったの⁉」

彼女が動揺したように声を上げた。


俺は彼女の目を見た後、窓の外を見た。

数々の建物の屋根が地平線の向こうまで果てしなく続いていた。


「俺がお前を庇ったのは、お前に死なれたら誰も俺を守ってくれないと思ったから」

「護衛される人間が護衛を庇って死んだら本末転倒じゃない!アタシは『身強』のおかげであの程度の爆発じゃ大怪我しないから庇う必要無かったのに……!」

「……そういうことは先に言えよ」

「は、はぁ……⁉だ、だって……アンタがアタシを助けてくれるなんて思ってなかったから……!」

月海が頬を赤らめたと思えば、ぷいっと窓の外に目を背けた。


「まあ……助かったわ。ありがと」

「ところで想決はどうした?まさか平気な顔して学校に来たわけじゃないよな」

「今日は学校に来てなかった。多分もう来ることはないと思うわ」

「あれだけ大きく動いてしまったら収拾もつかないだろうしな……」

「実は……それだけじゃないの」


月海から一枚の写真を見せられた。

そこには死体に沿って白いテープが貼られていた。

「殺人現場か。どこだ?養成高校の廊下に見えるが」

「アタシたちの教室がある階の突き当たりにある階段のところよ。あの時、偶然ここにいた人を口封じするために想決が手を下したの」


またアイツは人を殺めたのか__。


「いよいよ想決も本腰を入れたようだな」

「何他人事みたいに言ってるのよ。次はアンタの番かもしれないのに」

「月海がいるから大丈夫だと思うんだが」

「……そうだったわね。心配する必要無かったわ」

「……」


俺は目を閉じた。

そしてようやくうとうとし始めてきた頃に月海が口を開いた。

「あのさ……アンタにいくつか聞きたいことがあるんだけど……」

「なんだ?」

「アンタがアタシの首を掴んで投げた時……なんというか動き方がおかしかった気がしたのよ。まるでビデオで倍速を押したかのような動きというか……」


(コイツ、俺の加速にまで勘づくようになったのか……とはいえ結晶を作れるのが俺の適性だと誤解している以上は迂闊に変なことは言えないな。第一、加速とセイエイの存在は極力バラしたくはない……)


「あの時のことは……よく覚えてない。体が勝手に動いてた」

「そう……」

「まだ何かあるのか?」

「え、えっと……」

月海はか弱い声で言った。


「神村と臣桜ってどういう関係なの……?」

「関係……?」

「ほ、ほら!いつも隣で仲良く話してるから」

「そんなの聞いてどうする気だ?お前が知っても何にもならないだろう?」

「気になっただけよ」

月海はまた視線をそらした。

膝の上に乗っている手はぷるぷる震えている。


「申奏は……ただの女友達だ。四月の頃からずっと仲良くしてる」

「そう……付き合ってはいないのね」

「今はな」

「……」


間もなくして今川さんがお見舞いに来た。

「じゃあアタシは帰るわ。また何かあったら来るから」

「ああ。気をつけて」


今川さんは頬を怪我していた。

多分任務帰りのついでに寄ったんだろう。

「体は大丈夫そう?」

「セイエイがいたので外傷はありませんが……少し面倒なことになりまして」

「総隊長の子息が暴れてるようだね」

「……もう知ってたんですか」

「まあ僕も独自に調べてたからね……」

彼はスマホで何かを探し始めた。


「話変わるけど……これが相田財団の保有する研究所、『ARL』だ。おそらく想決の本拠地だと思う」

見せられたのは真っ白な壁に広大な敷地をもつ施設だった。

セキュリティも厳しく写真に写っているだけで警備員も数多くいた。

「『ARL』は闇が深いところでね。研究の内容とかを知ろうとすれば消されるなんて言われててさ……」

「はあ……」

「実は総隊長の方からここへの突入を頼まれていてね。研究の実態だとか色々な情報を集めてほしいみたいなんだ。急で悪いんだけど、このチームに君を入れたくて今日は来たんだ」

「俺をですか……?」

俺は目をパチクリさせて話を聞いていた。


「そう。僕が普段組んでる部隊でここに突入して思いっきり暴れてもいいんだけど……まあとりあえず君は自分の体を治すことを優先してくれ。詳しいことは後で教えるから」

今川さんは立ち上がる時に一瞬だけ微笑んだ。


「え?ちょっ、今川さん⁉」

彼を呼び止めようと声を出したら咽た。


(まさか正面衝突する気なのか⁉)


「まあいいか。寝よ……」

俺は枕に頭を埋めた。


俺の脳内に昨日の想決の顔が浮かび上がった。

絶望したかのような目の輝きなのに、その目が向く先は自分の夢だった。

もはやそれを成し遂げるだけに生まれてきた怪物のようにも見える。いや実際にそうなのだろう。


 ◇


時は流れて十一月下旬、相田が学校に来なくなって一週間が経った。

依然として学校には殺伐とした空気というか、人間不信になりそうな雰囲気が残っていた。


(再来週に『ARL』に突入するのか……いくらなんでも武力衝突は危険な気もするが……)


「姜椰……どうしたの?そんな真面目な顔して」

俺はスマホから彼女へと目線を移した。

「いつも真面目な顔だと思うんだが」

「なんか思い詰めてるみたいだったからさ……何かあったのかなって思って」

「別に何もない。今川さんからの連絡を見てただけ」

俺は横目で彼女の横顔を見つめた。


(彼女まで巻き込むことは無いようにしないとな。俺が任務に来ることを言ったら間違いなく一緒に来そうな気がするし)

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