第七十八話 「一爆二人」
放課後、俺は月海のクラスに立ち寄った。
「で、要件は何?」
俺は誰もいない教室に声が響かないようになるべく小声で言った。
「俺のクラスにいる佐宮を殺した犯人がわかった」
「聞かなくてもなんとなくわかるけど」
「今お前が考えてる人物で間違いない。今朝お前が戻った後に想決と小林の二人が体育館倉庫に向かうのを見たから、後を追って一連の会話を盗み聞きしていたら想決がそう言っていたんだ」
「動機はわかるの?殺されたの、ずっと前だったわよね」
「あぁ……そこまでは言及してなかった」
月海はバッグの中をごそごそして一枚のファイルを取り出した。
「保管するの面倒だからアンタに渡しておくわ」
俺はファイルを受け取った。
「これは何だ?」
「黄月からもらったものよ。中身は言えないから、気になるなら今見てもいいわ」
「……名簿か。一年七組……」
「赤線は死亡で黄線は消息不明、何も書かれていないのが無事を表してるわ」
「黄線だらけだな」
数えなくても二十近い黄線が引かれている。そこに存在感を示すように赤線が二つ引かれていた。
「見ての通り、あのクラスは壊滅状態。登校拒否の生徒も続出してるから学校側も対応に追われているのよ」
「そういえば……失踪の件でもあの二人が何か言ってたような……」
「あの二人も頭が悪いわね。わざわざそんなところで重要な情報をペラペラ喋るなんて」
俺は適当に教室の壁を見ながら思い出そうとしたが記憶にモヤがかかっていた。
「なんで大事なことを忘れるのよ……」
月海は「見てられない」と言って天井を見上げ、片手で目を覆った。
「思い出した。七組の生徒を連れ去ったのは小林だ」
「まあ十中八九そうでしょうね」
「あと……ヴァリァサーを使うとか言ってたな……」
「なッ……⁉」
月海は机にぶつかり、ガタンと音を立てた。
「ヴァリァサー……お前は知ってるのか?」
「やめてッ!!!!それ以上は……何も言わないで……!」
月海は体を震わせていた。額には変な汗をかき、右足は痙攣したかのように芯が安定していなかった。
「……大丈夫か」
「アレは……アンタも見たことがあるはずよ。あの生きる死体を……!」
「……お前が言える範囲で構わない。教えてくれないか……?」
「ヴァリァサーは……元は人間なの。肌は真っ黒で……自我も無く……」
「肌が真っ黒……もしかして俺がハロウィンの日に戦った隊員たちは……ッ!!!!」
俺の記憶が蘇った。
ハロウィンの夜、赤子の緑色の光によって変貌した隊員たちが虚ろな目をして自分たちに襲い掛かってきたこと。
倒した後、彼らは声一つ上げることなくボロボロと崩れ去ってしまったこと。
「もしかして養成高校の生徒を使ってヴァリァサーを育成しようとしてるのか……⁉」
「実際に七組から出た二人の死体はどこかしらの部位が崩壊していたみたいよ……」
「実験に失敗したから捨てたのか……!」
月海は「多分……」と深刻そうな表情を浮かべた。
「俺の命が狙われている理由って……」
「おそらくアンタをヴァリァサーにするわけではないと思うわ。ただ単にアンタが想決にとって邪魔なだけだと思うわ」
(黄月さんが俺に古村青叡の息子だと言わないように釘刺したのはこれが理由だったのか!もし想決たちにこのことがバレたらアイツらは死に物狂いで俺を殺しに来るに違いないから……)
想決の計画がいかに壮絶なものかが俺にもわかってきた。
最初は遠くに見えた隕石も近づくにつれて、その巨大さがわかるように。
「月海と神村か。二人は帰らないのか?」
突然教室内に響いた声に二人は驚き振り返った。
「想決……⁉」
「なんでコイツがここに……?」
姜椰と月海が身構えると、想決は平気な顔をして教室に足を入れた。
「いやぁ、すでに下校時刻を過ぎてるのに二人が教室にいたから注意しに来ただけだよ」
彼はゆっくりと教室の端まで歩くと、窓を開けて黄昏れ始めた。
「はぁ……君らだよね。僕のことを嗅ぎまわってる犬は」
さっきまでの穏やかな目とは逆にギロリと鋭い目でこちらを睨んだ。
「神村、もう少しだけ下がって。アタシの手が届くところにいて」
「ああ」
俺は彼女の隣まで下がり、想決の言葉に応えた。
「お前が何をしてるのかは知らないが、根拠も無く疑うのはやめてくれ」
「フッ……今朝僕をつけていたのも……神村姜椰、君なんだろう?」
「どうだろうな」
「……図星だね。小林の目は欺けても僕には通じないよ」
「だったらどうする気だ?」
「別にどうもしないけどね」
想決は一番近くにある机を蹴り倒した。
「ほらここに……!」
彼は倒した机の中から片手サイズの機械を取り出した。
「それは……盗聴器かしら?」
「俺たちの会話を盗み聞きしてたのか」
「まあね」
想決は盗聴器を月海の顔めがけて投げた。
彼女は片手で受け止めると、そのまま盗聴器を握りつぶしてしまった。
バラバラになった部品が床に落ちていく。
「小林がいる七組のことまで知られてるとは予想してたけど、まさか計画まで見抜かれてるとは思わなかったよ。つくづく面倒くさい連中だ……」
想決が前髪をかき上げる。
「面倒事を起こしてる張本人には言われたくない台詞だ」
「フッ……まあいいか。僕はそろそろ帰らせてもらうよ」
彼が教室を出る直前、こちらに向かって何かを投げた。
ゴン__と鈍い音がした。
「教材の段ボール……?中からタイマーの音がするが……」
カチ……カチ……カチ……
「何冷静な顔してるのよッ!早く逃げるわよッ!」
月海がこちらを向いて俺のことを突き飛ばした直後、教室が爆ぜた。
「うっ……神村……?怪我は無い……?」
月海は床に散らばる瓦礫を避けながら姜椰が倒れているところまで歩み寄った。
「吐血してる……脈は……」
彼女はそっと姜椰の手首に指を当てた。
「は、早すぎる……何が起こってるの……⁉」
彼女が近くに人がいないか首を回していると、姜椰が月海の手を握った。
「大丈夫か……怪我は……?」
「アンタはそのまま動かないで!」
「……」
俺は口と両目から血が溢れているのがわかった。
(加速・最高倍率……いくらなんでも反動が大きすぎる……)
爆発が起きた瞬間、俺は『加速』を最高倍率で使用して月海を廊下まで吹っ飛ばした。
そして自分も廊下に出て爆発から逃れることは出来たものの、その代償を食らってしまった。
「今助けを呼ぶからそれまで生きててよ!」
「……」
吹き抜けた教室から見える空にはもう夜が訪れていた。
俺が目を閉じるとそこにも一つの夜空があった。
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