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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第七十六話 「ヴァリァサー」

用語説明:「ヴァリァサー」


ヴァリァス化した人間のこと。

侵食とは異なり、体内に適量のヴァリァスが蓄積されたことで自我を失ってしまって他の化け物と同じように全身が真っ黒で人類に牙を向く存在である。

例えるならゾンビのようなもの。

獅子を討伐した後、俺は再化結晶が無いとわかりながらも黄月と共に周囲を探し回った。

内心では「完全に無駄なこと」と思っていたが、彼に怪しまれないようにするためだと言い聞かせて日没まで歩き回った。


もちろん再化結晶は全く見つからず、黄月は腕を組んで考え込んだ。

「妙ですね……」

「すでに消滅してるとかはありませんか?」

「再化結晶が勝手に消滅する可能性は限りなく低いでしょう。今までにそんな前例もありません」


(限りなく低い……か。まあそうだろうな……)


「神村殿はもう帰っても構いませんよ。明日も学校があるのでしょう?」

「いいんですか」

「必要以上に若い人を振り回すわけにはいきません。上には私から報告しておきますので」

「……ありがとうございます。それではお先に失礼します……」


俺は自然を装って帰途についた。

「なんでポケットヴァリァスのことを教えなかったんだ。教えればもっと早く帰れただろうに」

「……見たことないのを前提で聞くが、よくモールとかに無料でガチャを一回引けるイベントとかを開催していることがある。そしてガチャを引くと粗品や何かしらをもらえるんだ。なんでそんなことをやると思う?」

「慈善事業か」

「違う。そんな綺麗事をできるような企業はこの世に無い」


セイエイはしばらく黙り込んだ後、解答を言った。

「わかった、宣伝だ」

「おそらく違う。企業の本命の目的はそれじゃない」

「ギブアップ。答えは?」


情報収集だ___。


「情報……?」

セイエイはあまり意味がわかっていないようだ。

「ああいうのは小さな子供がやりたがる。無料だからやりたいと駄々をこねてな。そして子供がガチャを引いて粗品をもらって喜んでいる間に、スタッフが保護者にアンケートを取るんだ。家族構成やその他諸々……」

「……ほう」

「この世で最も大事なものは命。だがそれと同等の価値を持つのが”情報”……必要な情報であれば、喉から手が出るほど欲しいものだ」

「別に黄月は大丈夫だろ。信用に値するヤツだと思うぞ」

「俺もあの人には一定の信頼を置いてる。だが何においても過度は良くない。黄月さんを信じすぎるのも……な」

「考え方が大人になってきたな」

「まだ出会って半年も経ってないお前に俺の変化がわかるんだな」

「そりゃ相棒だからな!」


俺は家に到着と同時に着替えた。

「今川さんに連絡しないとな……」

スマホを起動して今川さんにラインを送った。


(黄月さんにポケットヴァリァスのことを教えてもいいですか?)


すると即座に既読がついた。

「黄月にはあまり余計なことは教えない方がいい。アイツが見聞きした情報は全て特殊部隊と国の方に共有される仕組みになってるから」


「すぅ……」

全てを悟った俺は「やらかした……」と言わんばかりに息を吸った。


「実は俺の身が狙われていると黄月さんに言われたんですが……」

「その話は僕も聞いた。でも黄月をあまり信用しない方がいい。彼はあくまでも国の所有物。指示一つでいつでも君の背中を襲えるし、情報も引き出し放題だ」

「どうすればいいですか……」

「君はいつも通りに接していればいい。ただセイエイやポケットヴァリァスのことは絶対に言うな」


そこで今川さんとの会話は途切れた。

(俺は何を信じればいいんだ……)


 ◇


時は遡ること十一月初日__。


ARLにて想決は篠宮博士に会いに来ていた。

「黄陽と格我は死んだよ」

「そうですか……まあなんとなく予想はできていましたが……」

「上から呑気に観戦してたけど、わざわざ行った甲斐があったよ。格我が叔父さんに殺られたところは見てて面白かったよ」

「それはよかったです。ところで坊ちゃま、実験の結果の方は……?」

「思っていた通りだったよ。化け物たちはヴァリァサーを味方と認識していた……」

「ということは……!」

篠宮博士は目を大きく見開いた。


「僕らの計画は順調だ。次に動くのは半年後くらいかな」

想決は言うだけ言って部屋を出て行った。


廊下を歩いていると、ある部屋の外にあるソファにふんぞり返っている隊員が目に入った。

「やあ小林、何してるんだ?」

小林は横画面のスマホから顔を上げた。

「想決……俺に何の用だ?」

「いやそろそろ潮時だからさ。もう一度聞いておくけど……君、覚悟はできてるの?」

そう言うと小林は顔を床の方に落とした。

想決はそんな彼を見下ろしていた。


「……神村姜椰を殺すとか言ってたな。そのことならいつでも覚悟はできてる」

「君がそこまでして彼を倒したいと思うとは少し意外だよ」

小林は膝の上に置いている左手を強く握りしめた。

「元創祭のことは絶対に忘れない……!俺があんな負け方をするのはあれを最初で最後にするッ!」

魂の宣言が誰もいない廊下に響き渡った。


「……うるさいよ」

「すまない。ついあの時のことを思い出すと取り乱してしまうものでな」

想決は小林と別れ、ARLの出口に向かった。


(幼馴染を手駒にするとは、僕も歪んだ人間に育ったものだ……)


想決は施設を出た。

雨上がりの空から降り注いだ陽光が水溜まりに反射した。

片手で目を隠し、自宅へと向かった。


「ああ……楽しみで体が疼く……ッ!ハハハ!」

彼は久しぶりに声を出して笑った。

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