第七話 「これだからモバイルス〇カは……」
皆が学校生活に慣れを覚え始めた頃、俺は相変わらず端の席でスマホを眺めていた。というのも……
完全に孤立状態。
学校来てから仲いい人ができ、そこで一つのグループが形成される。いつメンというやつだろうか。
俺は見事にそれに入れなかった。いや、別に一人でいるのがカッコいいとか思っているわけじゃなくて、こっちから近寄らなかったせいでこうなってるわけで。
当然、クラスの連中も目の前にいる友達と話すことを優先しているがために俺に話しかけるような人間はいるはずもなかった。
クラスのグループはいくつも出来ていたが、相田とその取り巻きが一番規模が大きかった。やはり父親が総隊長でありその息子も特殊部隊に配属されているとなると周囲の人間が振り向くのも納得がいく。
だが、何より辛いのは……
「相田、この前の土曜はどんな任務だったんだ?」
「Cランクヴァリァスを攻略しただけだよ」
こんな風に会話が全て聞き取れてしまうことだ。自分の悪口を言っていたらどう対処すればいいのかわからない。しかも取り巻きは男子に限らない。相田を狙っている、というか相田に好印象を抱いている連中なら男女関係無く相田の周りにいた。つまり女からもなんか言われる可能性があるのだ。
ちなみにあれだけ人気者でありながら、当の本人はあまり嬉しそうじゃない。自分が求めているのは
これじゃないと言わんばかりに質問されてもそれ以上の返答はしない。素っ気無く返すだけだったから
彼らはつまらん会話に飽きないんだろうか、なんて思っていた。
今の俺は昇格してDランクになった。巷ではランクの基準が厳格化したことで昇格にも慎重になっているらしい。とはいえ給料が変わるわけでもないし、ランクなんてただの飾りに過ぎなかった。
それはそうとさっきの会話から相田が特殊部隊に入った理由が聞こえてきた。
「相田ってなんで特殊部隊に入ったんだ?」
「お父さんに入るように言われたんだ。お前は適性が高いからってさ」
「コネで入ったってことか?」
一人が小馬鹿にしたような声(俺にはそう聞こえた)で相田に聞いた。その言葉が教室内に響いた時、
その言葉を聞いた人は全員閉口した。何が起こったのかわからなかった生徒たちは静まり返った教室内でコソコソ話していた。
「僕が父親のコネで部隊に入らないといけないほど無能な人間とでも言いたいの?」
ドスが効いていて低く重く、あらゆる負の感情が含まれた言葉だった。多分今の言葉が相田の逆鱗に触れたんだろうな。それに気づいたのかソイツは発言を取り消した。
「いや、冗談のつもりだったんだよ。ごめんな」
「わかってるよ。別に気にしてないから」
(ああは言ってるが今の声からして相当頭に来たんだろうな)
その場は気まずい雰囲気で幕を閉じ、やがて授業が始まった。
午前中は爆睡して昼飯時になった。すでに授業は終わっていたようで教室はガラガラだった。
(購買へレッツゴー!)
寝起きの俺は謎にハイテンションを迎えた状態で一階にある購買に向かうため階段を降りようとした。
そこで偶然にも相田に出会った。彼は俺なんかに見向きもせず教室の方へ向かっていた。
しかし、俺が階段の踊り場のところに差し掛かった時、相田が話しかけてきた。
「君は必ず潰す。僕の顔に泥を塗ったことは忘れないからな」
「誰に話しかけてるんだ?」
「⁉」
俺は後ろからそっと彼の方に手を置いた。さっきまで階段の下にいた俺が後ろにいるという不気味な
状況にも関わらず、コイツは冷静を保っていた。
「やはり目障りだ……」
すぐに俺の手を払いのけると捨て台詞を吐いて去ってしまった。
「あ、購買行かないと!」
購買がある角を曲がると騒がしい声が聞こえた。
「いいじゃん。お願いだってば。」
「でも……私の分が無くなっちゃうし……」
(なんだ、ただの揉め事か)
二人の女子が何やら言い争っていた。ポニテの女がショートの女に押されてる感じだった。
(なんで列のど真ん中で言い争うかねぇ。よそでやってくれよ……)
その間にも、女の友達は必死に交渉していた。ショート女の最初は温厚だった態度も徐々に豹変していき、交渉というよりも罵倒に近づいていった。何より、二人のせいで周囲の人たちは騒音に迷惑するし
列が進まないのも面倒だった。それを見かねたのか、後ろに並んでいた人たちは続々と消えていった。
(あまり目立つ行動は取りたくないんだが……飯を食べられないと困るしな。)
二人がトラブっているところに首を突っ込んだ。
「だから!明日返すから貸してほしいの!お願いだってば!」
「あの……二人ともさ、列が進まないからよそでやってくれるか?」
そういうとショート女は俺にガン飛ばしてきた。可愛さのカケラも無い奴だ。ただでさえブサイクな顔が怒っているせいでさらにデバフをかけていた。ショート女は今度は俺に詰め寄ってきて何か言おうとしたその時、彼女の表情が変わった。
「あ……す、すいませんでした……」
別に何もしてないのにどこかに行ってしまった。睨んだわけでもない。ただ真顔で見ていただけだ。
俺は身を縮めて去るショート女の背中を見つめていた。
「次の方どうぞー!」
購買の店員が列を前へ進ませ、ポニテの女は先に進んだ。
その後ろから俺は適当に選んで財布を取り出そうとした。だが、ポケットの中には学生証と隊員証しか入っていなかった。自分でも気づかなかったが、この二つを財布だと誤認していたようだ。
(無い⁉なんで⁉)
慌ててポケットの中を確認したが、財布は家に忘れてきたことを思い出した。
「モバイルス〇カの欠点だ……」
今までは財布に定期を入れていたため、忘れることはなかったんだがモバイルス〇カに乗り換えたせいで思わぬ弊害に衝突した。するとさっき助けたポニテの子が話しかけてきた。
「私が払いましょうか?さっき助けてくれたので……」
見かねて助けに来てくれたのだろう。だが初対面で奢らせると我が第一印象に大きく影響する故、
俺は丁重にそれを断った。そして店員に隊員証を見せた。
「毎度ありがとうございます」
こうして俺は無料で昼飯を調達した。学生の隊員はランクごとに上限額が決まっているがその範囲内で購買や、自販機のもしかしたら、名も知らない人に隊員であることがバレてしまったかもしれない。まあいずれバレることだから諦めよう。
ポニテの子は俺が買い物をし終えると改めて礼を伝えた。
「助けてありがとうございました」
「気にしないでくれ。あのままだと俺も昼飯を買えなかったから」
「何かお礼がしたいんですが……」
「無理にしなくていい。その時が来ればお願いすることもあるかもしれないから」
それからお互いに黙り込んでしまい、時間も迫っていたので俺は適当に挨拶してその場を去った。
購買は店じまいを始める。
誰もいない購買を出る時、ポニテの子は少しだけ笑っていたのだった。
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