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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第七十二話 「四月の記憶」

「はぁ……疲れた」

俺は登校途中にため息をついた。

「相棒、昨日はどこに行ってたんだ?」

「黄月が古村青叡のことについて知りたいことがあると言っていたから……彼のとこまで」

「なんて言われたんだ?」

「結論から言えば、相田想決が俺の身を狙ってるってことだ」

「大丈夫なのか、それ。学校で戦闘になったらどうやって戦う気だ?」

「お前の結晶を頼るしかないだろ」


俺は教室まで着き、自分の席に座った。

「あ、おはよ」

先に来ていた申奏がスマホから顔を上げる。

「おはよう」

「なんか疲れてない?土日ちゃんと休めなかった?」

「今日課題出さないといけないだろ?それを終わらせるために午前一時くらいまで起きてたんだ」

「また授業中寝そうだね」

「電車でも立ったまま寝そうになったし、多分そうなる」


俺は荷物を出してバッグを机の横にかけた。

始業までの時間はいつも通りにスマホを取り出して連絡とかをチェックする。

(誰かから来てるな……)


日付を見ると昨日の深夜に月海からメッセージが送られていた。

(「アタシが体育館倉庫のマットの上で寝ていたら急に佐宮って人が入って来て、誰かと思って見ていたらそれに続くように相田が入って来て彼を刺したの」)

俺は真顔でそれを読み終えたが、途端に寒気が走った。

(もし見つかれば月海も殺されてた可能性があったのか……。そもそもなんで体育館倉庫で寝ていたのかも気になるが……)


俺はガタと音を立てて席を立った。

「どこ行くの?」

「三組」


(いるといいんだがな……)


俺は三組に着き、入り口から教室内を覗いた。

(いない……まだ来てないのか?)


「何してんの?」

「ん……月海か。お前を探してたところだ」

「昨日のラインのことで聞きたいことがあるんでしょう?」

俺は頷いた。

「でもここだと人が多いから屋上で話したいわ」


 ◇


屋上は肌寒い風が吹いていた。

彼女は持って来たカイロを両手で挟み、すりすりしていた。

「何、ジロジロ見て。これはアタシのだからあげないわよ」

こちらをジト目で睨みつける。

「誰も求めてないって……」

「それで何が聞きたいの?」

「アイツ(佐宮)が殺された後のことが知りたい。痕跡とか二人が言っていたこととか何か覚えてることはあるか?」

彼女は腕を組み、フェンスに寄りかかった。

「アタシはあの時__」


(回想)


相田が佐宮を殺して体育館倉庫を去った後、彼女は物音を立てないように起き上がって死体を見下ろした。血だまりを踏まないように佐宮の首に手を当てた。

(もう手遅れのようね……)


彼女は倉庫の扉を少しだけ開いて外を見た。

「あの人も帰ったみたい……」

そっと扉を閉めて佐宮の死体と向き直った。貫かれたユニフォームからは赤い血が出続けていた。

(心臓を正確にやられてる。しかも傷口が焼け焦げてる……?)


「まさか電撃剣……?」

彼女の脳内にその武器の姿が思い浮かんだ。

(このことは黙っていた方がいいわね……また面倒なことに巻き込まれるのだけは勘弁だわ)




「__って感じかしら」

「俺以外にこのことを知っている人は?」

「誰もいないわ。余計な事を喋ると身を亡ぼすっていうでしょう?」

「想決はどうする?問い詰めるにも証拠が無い」

「そうする必要すら無いと思うわ。警察ですら何も掴めていないんだからアタシたちが動いたって何も変わらないに決まってる。それにアンタは他人の死に構ってるほど余裕は無いわ」


彼女は校舎内へ歩き始めた。

「当分は想決と距離を置いて。もし襲われたら……死ぬ気で逃げて?」

「護衛するんじゃないのか」

「誰がアンタなんかと一緒にいないといけないのよ」

月海はそのまま俺の横を通って校舎に戻ってしまった。


「新手のツンデレかよ……」


その時、チャイムが鳴り響いた。

「もう時間か……!」

俺は走って教室に戻った。


「はぁはぁ……」

息がひどく荒くなっている俺を見て

「どこ行ってたの?さっき三組の前通ったけどいなかったよ?」

「屋上にいた」

「誰と」

「月海と」

「何の話してたの?」

「秘密」

俺は自分の荷物を取りにロッカーへ向かう。

「え~……二人きりで何してたのか気になるよ」

申奏は俺が席の後ろを通り終えたところで振り返り、俺の袖を掴んだ。

「捕まえた。さ、何話してたのか教えてよ」

「みんな見てるから……!」

俺は小声で彼女に言った。

「……」

彼女はしぶしぶ手を離した。

すぐさま荷物を回収して席に戻った。


授業が始まり俺と申奏は席をくっつけた。

「……」

彼女はじっと俺を見つめた。

「ああ、月海と話してたことか?」

「コクコク……」


申奏は頷くときとかに効果音を言うタイプの人間だった。


「ただ部隊での任務の話をしていただけだ。あまり他の生徒に聞かれたくないから屋上で話したんだ」

「そう……ならいいけど」

彼女は安心したように言っていたが、心の底では不安が拭いきれていないようだった。


俺がシャーペンをくるくると回していると手元が滑って彼女の机まで行ってしまった。

「ごめん、邪魔した……」

シャーペンを拾おうと手を伸ばすと彼女は左手で俺の手を握った。

「申奏……⁉」

「書き終わるまで少し待ってて」


困惑する俺と相対して、申奏は真顔で板書を書き写していた。

書き終えたのか彼女はシャーペンの芯を机に押し付けるようにして仕舞うと、俺に向き直った。

「あのさ……まだ先のことなんだけど……」

彼女の俺の手をさらに強く握った。


「クリスマス……空いてる……?」

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