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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第三章 「先天奴隷」
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第七十話 「昼食難民」

「私が調べたのはこのくらいです。彼自身、過去が闇に葬られている部分がかなりあったので把握できていないこともまだまだあるはずです」

「想決が母親の遺言に従って動いてる……と言われても信じられませんよ。アイツがそんな親孝行な人間には見えません」

「信じるか信じないかはあなた次第……ですよ」


黄月はドアノブを捻り、扉の鍵がしまったことを確認するとエレベーターのボタンを押した。

「それと……想決殿が親孝行な人間に見えないと言いましたが、それは典型的な誤解です。いいですか、目に見えるものだけが真実とは限りません。また自分の経験も然りです」

「そうでしたね……ですが俺は学校でアイツをよく見ます。なので感覚でわかります……アイツはそんな模範的なことをするような人ではありません」


俺が最後だけきっぱりと言い切ると黄月はそれ以上何も言わず、エレベーターが到着するのを待った。

(少しムキになりすぎたか?今後は控えた方がいいな……)


黄月は入り口まで送ってくれた。

「改めてありがとうございます。今日は有意義な時間を過ごせました」

「いえ、俺こそ父さんのことが知れてよかったです。まだ少し飲み込めてませんが……」

「くれぐれも彼にはお気をつけて。緊急時では申奏殿や慈串殿は頼りになりませんから」

「どうしてですか」

「あの二人の適性では彼と素手で戦って勝てないからです。申奏殿は銃が無ければ普通の少女、慈串殿は適性が低いので彼と渡り合えません」

黄月は淡々と言い放った。


「俺はどうすれば……?」

「彼と二人きりにならないこと。それさえ守ってくれればあとはこちらで対処します」


家に帰る途中、規則正しく並べられた地面の石板の間に埋められたコンクリートの線を目で追いながら解決策を考えていた。

(要は常に誰かが隣にいればいいのか……)


「申奏に頼むか」

気づけばスマホを手に取り彼女にメッセージを送信していた。


ぐぅ~……__


「……何食べようかな」


美味しそうな匂いが漂う繁華街を彷徨っていた。

何か持ち帰ってもいいし、食べていくのも悪くない。

(ランク上がってから給料も数十倍になったし、たまには外食でもアリだよな)


そう思って探していたのに食べたいものが見つからなかった。

厳密にいえば見つかったのだが、行列すぎて並ぶ気が失せたのだ。

「コンビニ行こ……」


何を買おうか考えながら入店。

半分早歩きで主食コーナーに突撃すると、そこはすでにもぬけの殻だった。

何者か(多分客)が彼らを連れ去ってしまったのだろう。


(弁当も無いッ!ラーメンも無いッ!チャーハンも無いッ!ツナマヨのおにぎりも無いッ!)


俺は放心状態になり、空っぽの棚の前に立ち尽くした。

「お菓子で間に合わせるか……」

別に一食ぐらいであればグミとかでも腹は満たされる。これは作者の実体験だ。

しかもハードグミとかにすれば嚙む力は鍛えられるし、コラーゲンは補給されるし、噛むから満腹になりやすいのだ。

健康体の読者の皆様には是非オススメしません……。


俺はお菓子コーナーに行き、適当に探していた。

「この棚にあるもの全てくれないかしらッ!!!」

「⁉」

どこぞの金持ちが言いそうなセリフが店内に響いた。


(誰だよ、金持ちになったら一度は言いたい台詞ランキング第三位みたいなこと言ったヤツは……)


俺はレジの方に向かい、ソイツの顔を見た。

「月海ッ……⁉」

「あ……」

両者硬直し、「こんなとこで何をやってる」と言わんばかりの空気が溢れだした。


「何してるんだ?」

「見ればわかるでしょ。午後のおやつを買いに来ただけよ」


見てもわからない。

入店の開口一番に「全部くれ」なんていうヤツのことなんてわからない。

しかもこの量を「午後のおやつ」扱いしてるヤツのことなんてもっとわからない。


「月海の家って金持ちだったんだな」

「当たり前よ」

俺はレジで会計を済ませて袋片手に店を出ようとした時、月海は目にも止まらない速さで俺の前に立ち塞がった。

「ちょっと待って。それの中身見せて」

「断る」

そう言ったのに、彼女は首を伸ばして袋の中身を覗いた。

こちらに勢いよく首を伸ばした時に、彼女の甘い匂いが風に乗って顔面に直撃した。

「……なんでお菓子だけなのよ。不健康にもほどがあるわ」

「主食が売り切れてたから。ただそれだけだ」

「だから行こうとしないでってば。アンタは少しマイペース過ぎるわ」


(苦手なヤツとはできるだけ離れたいに決まってるだろうが……!)


「まあいいわ。おやつなんていつでも食べられるし、とりあえずアンタにまともな食事をさせないと!」

「待った。別に俺は普段からこういう生活をしてるわけじゃ……!」

俺は月海の車に放り込まれるとあっという間に発進してしまった。


「……どういう風の吹き回しだ」

「別に……!ただの気まぐれだけど」


 ◇


「ここがお前の家か?」

「そうよ」

車が敷地内に停まり、執事と思われる人と使用人が両方から車の扉を開けた。

「さ、上がって」

「お邪魔します……」


月海の豪邸は玄関の大きさから違っていた。

靴を置くだけの玄関にしては、どう考えてもいらないほどスペースが取られている。

「あまりアタシから離れないでくれる?迷われると面倒だから」

「この距離がちょうどいいんだ」

「もっと近づいてくれればいいのに……!」

「なんか言ったか?」

「なんでもないわ」


(本当は丸聞こえだったんだけどな……)

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