登場人物の過去#4 「相田想決」
相田想決は父:相田俊之と母:符美の息子生まれた。
まだ言葉も話せない年齢でヴァリァス適性「身強」を発現し、周りからは将来有望と期待されていた。
当然そんな幼い年でその身に余る強大な力を手にしたため両親や周囲の人間は彼と接するだけで神経が磨り減っていたらしい。
なんせ機嫌が悪くなったら力任せに拳を振るうからだ。
そんな想決だったが、彼の才能は適性だけに留まらなかった。
「想決!やっぱりあなたはすごいわ!」
「また賞を取ったのか!」
彼は芸術などの面でもその才を思う存分発揮した。
逆に想決が大会やコンテストに出場して手ぶらで帰ってくる方がおかしいほどだ。
「母さん、賞を取るってそんなにすごいことなの?」
「当たり前でしょ!こんなこと、誰にでもできるわけじゃないわ!」
符美は想決を力一杯抱きしめ、頭をなでなでした。
「もういいよっ!」
符美を押し返したものの、彼は終始満更でもない顔をしていた。
そのかわいらしさに再び心揺さぶられた符美はもう一度想決の頭を撫でた。
「むぅ……」
想決はふくれっ面を披露した。
◇
時は流れて寒い冬、彼が十一歳のときに家に一本の電話が来た。
彼はリビングの机で勉強しながら受話器を取った父親の会話に耳を澄ませていた。
「はい。はい……ええ……え⁉本当ですか⁉」
父親の驚き様に何か不穏な空気を察知した想決は鉛筆を止めた。
それから間もなくして父親は受話器を置いて想決の方に体を向けた。
「想決!出かける準備をしろ!」
「なんで?」
「いいから早く!」
「?」
父親に言われるがままに想決は支度した。
夜の街を車で走った。
一定間隔で置かれた街灯を目で追いながら、まだ暖まりきってない車内の寒さを噛み締めていた。
「よし行くぞ」
父さんの声と同時に僕は冷たい車体を押して扉を閉めた。
その直後に車のランプが光り、サイドミラーは寒さから逃げるように体を丸めた。
車に気をつけながら真っ暗闇の駐車場を横断した。
病院に入るとすでに患者の数は数えるほどしか残っていなかった。
午後七時だからそれもそうか、と納得した。
父さんは受付で女の人と話すと部屋の番号を教えられた。
「階段で行こう」
「あっちにエレベーターあるよ?」
僕が指さす。
「そんな暇は無い」
少し焦った口調の父さんは小走りで教えられた番号の部屋に向かった。
(母さんに何かあったのかな……)
二人が階段を駆け上がる音が響いた。
この時点で僕はほぼ察せていた。
自分の母親が危篤に陥っているのだと。
「符美!!!!」
父さんが勢いよく扉を開け、母さんのベッドまで駆け寄った。
「母さん……」
母さんは右腕から右頬にかけて肌が紫色に変わっていた。
「何があったんですか……⁉」
付き添っていた看護師に聞いた。
「さきほど発生したヴァリァスの化け物に噛まれたみたいで……その毒が回っているようです……」
「解毒できないんですか……⁉」
「……」
看護師は無言で首を横に振った。
「……あとどのくらい持ちますか……?」
「それもわかりません……」
その後、看護師は僕ら三人を残してどこかに行ってしまった。
母さんとの最期の時間をせいぜい味わえ、という神からの残酷な宣告だった。
父さんが涙を流しながら今までの感謝とこれからのことを語り尽くした。
まだ言い切れてないのだろう。再び口を開こうとしたその時、母さんが弱り切った声で言った。
「ちょっと……想決と二人っきりにしてくれない……?」
「わ……わかった……」
父さんは廊下に向かった。
「母さん……大丈夫?」
僕は母さんの手を握った。
「想決……今から遺言を言うからちゃんと聞いて……」
「……うん」
「まずはね、私はあなたを産めたことを何よりも誇りに思ってるわ……!あなたの将来を見届けてあげられないのは……すごく残念だけど……」
母の手は震えている。もうろくに力を込めることすらできないようだ。
「私の最期の願いはね……あなたの才能を活かして多くの人の役に立ってほしいの……。私みたいな人がこれ以上出ないように……」
「わかった……」
「いい子ね……それじゃ、お父さんを呼んでくれる……?」
「うん……」
父さんを呼んで戻ってくると、母さんは目すら開けていなかった。
また母さんの手を握ったが、握り返す力はあまりにも弱かった。
僕は生命の脆弱さを知った。
僕は人の儚さを知った。
僕は悲しみを知ってしまった。
それから間もなくして母から命の波が消えた。
緑の水平線が描くのはわずかに凹凸のある大地だった。
母の手は握り返す力も無くなってしまったが、それでも僕は泣きながら握り続けていた。
「僕が……母さんの願いを叶えてみせるよ……!」
◇
その日以来、想決の人格は激変した。
目は冷酷さを宿し、ヴァリァスを親の仇を見なすようになった。
「僕がヴァリァスを潰す……!」
持ち前の適性で化け物を圧倒して着実に出世していった。
そして彼が中三の冬、忘れ物をして教室に戻った時のことだった。
「少し疲れてるのか……?僕が筆箱を忘れるなんて……」
開きっぱなしになった扉をくぐり、教室に入ると女子生徒が数人立っていた。
「何やってるんだ……⁉」
そう言うと女子生徒たちは一斉にこちらに振り返った。
「相田じゃん、何しに来たの?まさか、このブスを助けに来たわけ?」
確かに彼女らの奥には誰かが座り込んでいた。
(面倒なことには巻き込まれたくないけど、これを見捨てたら僕にも責任を問われそうだな……)
想決は無言で女子たちのところまで行き、先頭にいた生徒を殴った。
「なっ……殴ったッ……!」
「ちょっ、早く逃げよう⁉」
女子たちは一目散に逃げていく。
それに続いて殴り倒した女子も立ち上がろうとしていたので追加でもう一撃お見舞いした。
現場には想決といじめられていた女子生徒が残された。
「この人は……」
彼はロッカーを見て出席番号から氏名を割り出した。
(臣桜申奏……か。僕は話したことが無いけどまさかいじめられてたとは……)
濡れた地面に膝をついて彼女を起こそうとした時、差し伸べた手が弾かれた。
「ご、ごめんなさいッ……!!!!」
「あ……」
彼女は全力疾走で教室を出て行ってしまった。
せっかく助けたのに恩を仇で返された感じがして結構癪に障った。
それから助けた少女は学校に来なかった。
おまけに想決は「女子を殴った男」という最悪なレッテルを貼られ、友人も全て失った。
そして中学を卒業した後の春休みに彼は相田俊之の叔父と出会った。
進学先が養成高校だったため、ヴァリァスのことを詳しく知るという理由で想決はARLに向かわされたのだった。
「__なんてことがあったんだ」
「……気に食わないヤツは全員殺してしまえばいい。お前が殴った女子も、お礼を言わなかった女子も、離れていった友人も全員……な」
「そうだね……」
彼は沈黙した。
「叔父さんだったらそうしてる?」
叔父はタバコの煙を吐いて言った。
「俺は欲のままに動く。殺したいやつがいたら理由なくとも殺す、したいことがあったらする。ただそれだけだ」
「……いいね。その生き方参考にさせてもらうよ」
彼の中で埋まっていた「酷」の種が芽吹いた瞬間だった。
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