第六十八話 「もはや遺影」
俺達が病院を出るとメカニックな車が一台停まっていた。
黄月が近づくと勝手に車の扉が開いた。
「さ、乗ってください」
俺は助手席に座らされ、彼は車の向こう側に移動して運転席に座った。
車内は高級感漂う薄肌色のシートで外装とはうって異なる様式だった。
黄月は運転も上手く、乗ってて不快感が全く無かったのだが車内に漂う消臭剤では誤魔化せない油の匂いが少しだけ気になった。
「なぜ私が神村殿を招いたかわかりますか?」
「さあ……」
「率直に言えば、国の命令です」
「国?」
「私には人と同じ思考を持っていますが、あくまでも国が所有する機械に過ぎません。今までも今回も、国の命令であなたを保護するように言われたのです」
「保護……俺は何かに狙われてるんですか」
俺は冗談交じりに言ったが、彼は全く笑わなかった。
そこで俺は事の重大さを察した。
「まさか……そんなにまずい状況なんですか……?」
「今はまだ大丈夫でしょうが、すぐに周囲に異変が起きるはずです」
「一つ聞きたいんですが……俺はなんで狙われてるんですか?何もした覚えはありませんが……」
「はぁ……あなたはもう十分やってますよ」
黄月はとある一軒家の前で車を停めた。
(ここは……俺の家ッ⁉)
「さ、降りてください」
「あの、ここ俺の家なんですが……」
「もちろん知ってます。その上であなたの家で探したいものがあるのです」
黄月が車の向こうから降りると車は自動運転でどこかへ走り去ってしまった。
「あ、今開けます……」
俺がポケットから鍵を取り出すと同時に黄月は扉を開けた。
「必要ありませんよ。たった今ピッキングしましたので」
「なんでそんなに手慣れてるんですか……」
家に入ると黄月は靴を脱いだ。
「それではお邪魔します」
「何か飲みますか?」
「大丈夫です。先週燃料補給したばかりですので」
彼はそのまま家の散策した。
一通り終わったのか、俺がいるリビングに来て言った。
「ご家族はいらっしゃらないのですか?」
「父親は十年前に離婚して消息不明で、母親は半年前に家を出ました。どちらも音信不通です」
「そうでしたか。失礼なことを伺いました」
黄月はペコリと頭を下げると続けて言った。
「お父さんの写真などはありますか?」
「……結婚式の写真がもしかしたらあるかもしれません」
「良ければ見せてくれませんか」
なぜか食いかかる黄月に押され、俺はホコリまみれの押入れを数年ぶりに開けた。
「少し窓を開けましょう。今から私が掃除しますので」
「そ、掃除?」
黄月は右手を外すと俺に渡した。
そして押し入れに手の断面を向けてスイッチを押した。
ウィーーーーーン!!!!!
超パワフルな掃除機のようにホコリが吸い込まれていく。
「これで少しは綺麗になったかと」
彼は開けた窓から外に右腕を出し、ホコリを全て吐き出した。
太陽光に反射して空気中を舞うホコリも流離の風によって名も無い場所へと運ばれていった。
「なんでもできるんですね」
「全て戦闘に使うものばかりですよ。私にはその他の目的で搭載されている装置はありませんから」
彼はホコリ一つ無くなった押し入れを見た。
「これですかね……」
彼は一冊の紺色の冊子を指さした。
「アルバムともなれば貴重なものです故、関係者でもない私が触ることはできません。まことに恐れ多いのですが、取っていただけないでしょうか……?」
「よいしょっと」
上に乗っかっている荷物が倒れないように慎重に取り出した。
どこか古びた感じのアルバムを黄月に渡した。
「では拝見します……」
二三枚ほど捲ると彼の表情は何かを確信したような顔に変わった。
「こちらに映っているお二人はあなたのご両親で間違いありませんか?」
アルバムをこちらに見せて言った。
「ありません」
「なるほど……やはりあなたは命を狙われるほどのことをやってしまったようです」
「少し心当たりが無いわけではありませんが……一応教えてくれませんか。ここまで協力したんですし、当事者である俺にも知る権利があると思います」
「では明日、ちょうど日曜日ですから私のところまで来てくれませんか。本部のところで待っていますので……」
「ここで言えない内容なんですか」
「言ってもあなたは納得してくれないでしょう」
黄月は帰り際、俺に聞いた。
「あなたは歴代最強と言われた隊員を知っていますか」
「今川さんから聞きました。Zランクヴァリァスを攻略した人だと……」
「そう。誰も彼もが憧れる伝説、そんな彼でしたがその最期は悲惨なものでした。何だかわかりますか?わからなければ予想でも構いません」
「自殺ですか」
「正解です……が彼の死因までは知らないでしょう」
「逆に知ってるんですか」
彼は去り行く足を止めて、半分だけこちらに振り返った。
「それも含めて明日お伝えします」
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