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侵食世界「ヴァリァス」  作者: 弱十七
第二章幕間 「データ・オヴ・ルミナス」
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第六十七話 「唯一残されたもの」

ハロウィンの夜から一週間後__。

俺は如月さんのお見舞いに来ていた。


「こちらの部屋にいらっしゃいます」

「どうも」

看護師はにこやかに挨拶するとカルテを抱えて戻っていった。


俺はゆっくりと扉を開けた。

「あれ、神村じゃないか」

真っ先に俺の視界に入ったのは如月さんではなく今川さんだった。

変な姿勢で止まっていた。今まさに帰ろうとしていたらしい。


「どうして今川さんがこんなとこに……?」

「ん……大切な後輩が重傷だって聞いたから予定を開けてきたんだ」

「あぁ……」

「じゃ、僕はそろそろ戻らないとだから」

今川さんは部屋を出て行ってしまった。


一週間ぶりに彼女と顔を合わせると少し気まずかった。

先月まで一緒に戦ってきた仲なのにだ。


俺は黙って今川さんが座っていた椅子に腰かけた。

少し肌寒い部屋には椅子に残った温もりがより温かく感じた。

「大丈夫ですか」

「……見ての通りかな」

彼女はいつにも増してサバサバしていた。

俺が質問すると壁の向こうあたりに目を逸らした。


彼女の右目には真っ白な包帯が巻き付けられ、左腕は二の腕の半分くらいまでが無くなっていた。

自分で「大丈夫ですか」なんて質問しておいてなんだが、どう考えても大丈夫なわけは無い。だが、今の俺にはそれ以外にかける声が見つからなかった。


「君は……これからどうするの?」

「これからですか?」

「まだどこにも配属されてないんでしょ?君ほどの戦闘力であれば他のSランクの人たちとも組めるはずだからさ……」

「そうですね……弥生あたりからスカウトとか来てくれたらなんて考えていたんですが……音沙汰は無く……」

彼女は終始ずっと前だけを向いていた。

しかし急にこちらに首を曲げ、もうない右目でこちらを見た。俺からは彼女の左目が見えないから、多分彼女も俺の顔は見えてない。


「もし君さえよければさ……私と組まない?」

彼女はそう言った。少しだけ愛の告白味を帯びたその言い方に俺は面食らった。

「組むって……その体では戦闘なんて難しいはずでは……」

「当然、今の私にはSランクの実力なんて無いけど戦う意思なら残ってる。それが私に唯一残された武器だから……」

「その……俺は如月さんとは組めません。それ以前に、もうあなたには戦ってほしくありません……!」

「えっ……」

彼女は少し驚いたのか、体の動きがピタリと止まった。


それでもかまわず俺は言葉を続ける。

「戦う意思があるのはわかりますが、それだけの後遺症を抱えていて戦場に立つのは心配です。俺では守り切れる自信はありません……」

「あぁ……そ、そうだね。この体じゃ……無理か」

俺は丁重に、できるだけ柔らかく断ったつもりだったが彼女は泣いてしまった。


「あっ……あぁ……」

俺は小さなパニックになった。

いくら四歳年上の人とはいえ、女性に泣かれた時の対処法なんて知らない。

とりあえずティッシュの箱を差し出してその場はやり過ごした。


彼女は涙を拭き終えると重々しく口を開けた。

「実は私に残ってる人……君だけなんだ」

「”君だけ”……?」

俺は言葉を言い終えた途端、「赤月」という名前が電流のように脳裏をよぎった。

「赤月は……黄陽と戦って私の目の前で自爆したの」

彼女はまた泣き始め、ティッシュがものすごい速さで無くなっていった。

「せめて君がいてくれたら少しは退屈が拭えると思ったんだけど……無理な願いだった?」

「そういうことなら構いませんが……如月さんが退院してまともに戦えるようになるまでは他の隊と組みたいです。俺は……まだ未熟ですから」

目のやり場が見つからなかった俺は彼女の右手をずっと見つめた。


「次は誰のとこに行くの?私の方から連絡しようか?」

「そうですね……」

その時、扉が勢いよく開いた。部屋に入ってきたのはSランク八番隊隊長:黄月輝だった。

「その必要はありませんよ。神村殿は私がもらいますので」


「あっそう。よかったね、引き取り先が見つかって」

彼女は両目をパチクリしている俺に言った。

「いや……まだ話したことも無いのに急に言われても……」

「心配ありませんよ。今までもそういう人はストレージが埋まるほど見てきたので」

黄月はこちらに歩み寄り、空気椅子に座った。


(何を平然と空気椅子に座ってるんだ……⁉)


「そういえば神村には言ってなかったね。黄月は日本が作ったアンドロイドなの。他国から借金して税金も浪費してやっと作った最高傑作……だったっけ」

「おおよそ正解です」

「正式名称は『対ヴァリァス用万能戦闘機構』……だったかな」

「正解です」

「……いちいち正答を判断するのやめてくれない?」

「承知しました」

黄月は気味が悪いほどに従順だった。


「それでは私たちはこの辺で失礼致します」

別れ際、彼女は俺に言った。

「それじゃ神村も頑張って。応援してるから」

「もちろんです。必ず成長して……如月さんを退屈させないようになって帰ってきますから!」

「っ……!」

彼女の目が少しだけ震えた。

そして珍しく俺に微笑み言った。

「……楽しみにしてるよ」


俺は扉を静かに閉めた。

その後ろで黄月は腕を組んで待っていた。

「少し話がしたいのですが、お時間よろしいですか?」

「俺は大丈夫です」

「では場所を変えましょう。ここでは誰が聞いてるかわかりませんから」


黄月は光が差し込む廊下を歩き始めた。

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