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第六話 「引き出された才覚」

地面があたたかい。触れている肌がそう教えてくれた。その暖かさは全身に血が巡るように広がっていた。


俺はあの戦いが終わった後、気を失ってしまったようだ。冬の布団の中のように居心地が良かったが、外で寝るわけにもいかないので目を開けた。


視界に飛び込んだのは全てが真っ黒に染まった駐車場だった。

(なんだこれは……)

暗黒の世界は目の前で崩れ去った。自分のいたところも崩れ、俺は果てしなく落ちていく。

最後に見たのは見下すようにその姿を見せる太陽だった。


「ハッ……!」

本当に目が覚めると記憶通りの場所にいた。近くには死んだ隊員たちが相変わらず転がっている。

俺は自分の剣をしまい、これからどうするか困った。


(どうやって助けを呼べと……?)


隊長の無線機はあの化け物の光線で綺麗に真っ二つになっていた。他の隊員の持ち物を漁ろうとも思ったが、後で文句を言われたくなかったのでその場でボーッと突っ立っていた。


俺はインカムの存在を思い出し、とりあえず状況報告をすることにした。

「任務……完了しました」

それだけ言ってマイクを切った。


すると応援が駆けつけてきた。彼らは呆然と佇む俺と真っ二つになってしまった他の隊員たちを見るとすぐに行動を開始した。テキパキと死体の身元を把握したり、防犯カメラの映像を確認したりと手慣れていた動作で仕事をこなしていた。

やがて俺のところに隊員の一人が事情聴取に来た。


 ♢


「状況はわかったけど……よくCランクを単騎で倒せたね」

「そうですね……」

その場で適当に対応したが、俺の能力のことをあまり他人に知られたくない。あくまで適性のおかげで身体能力が上がっているという範囲で済ませたいのだ。

俺は病院に運ばれ、傷を治療された。その日は病院に泊まり翌日に帰るように言われた。


 ◇


ヴァリァス特殊部隊本部の一室で重役たちが面々を合わせて議論を交わしていた。

この議会を取りしきる総隊長、相田俊之(あいだとしゆき)は言った。

「やはりEランクは一般人と変わりない。ヴァリァスをまともに攻略できないなら、いない方がいい」


そこに口を挟んだのはSランク五番隊隊長の今川晴斗(いまがわせいと)だった。彼は若くしてSランク隊員になった才能の塊である。

「だが、今のEランク隊員はどうするつもりですか。全員を強制的に辞めさせるか、Dランクに昇格させるかの二択ですよ」

「そうも限らない。試験を設けて隊員たちを篩いにかけて一定の基準に満たなかった者は辞めさせるようにすれば不満も無く足手纏いを減らすことができる。実際に先日、Eランクヴァリァス相手にCランク隊長率いる部隊が壊滅したそうじゃないか」


総隊長は見ていた資料を机に滑らせて今川に渡す。彼がその資料に目を通している間に総隊長は秘書に何かを準備させた。

「今川隊員、それで見てわかっただろう。もう少し隊員の基準を厳しくしないとそういう事態がこれからも多発する。これ以上不要な犠牲を出すわけにはいかない」

「……わかりました。僕も異論はありません」

今川は資料を総隊長に返した。


すると部屋が暗くなり、一枚のデータが映し出された。

「これを見てほしい。これは先日入隊した隊員の一人なんだが、Eランクでありながら初任務でオーバーブレイクしたCランクヴァリァスを単騎で消滅させた麒麟児だ」

一同は映し出された少年を見てどよめいた。

「それに彼は入隊前にもDランクヴァリァスを単騎で攻略し窮地に陥っていた隊員を救ったことがある。私が求めるのはこういう未来の卵のような人材なんだ」


総隊長を除く場にいた十一人は黙り込んだ。そこに追い打ちをかけるように言葉を続けた。

「先程、Cランク隊員率いる部隊が壊滅したと言っただろう?彼はその場に居合わせていた。目の前で仲間を殺されても冷静に化け物を仕留めるメンタルは諸君も見習うべきなんじゃないか?」


それから隊員の階級には定期的に試験が設けられたことにより、思わぬ才能を持った人材の発掘を図り、無能を蹴落とすことができるようになった。


 ◇


俺は休み時間にいつも通りスマホを触っていると、持ち前の地獄耳のせいで教室にいる生徒たちの声が手に取るように聞こえてきた。

「なあ、相田ってお父さんが総隊長なんだろ?どれぐらい強いんだ?」


(相田……この前の風船割りの時に無双してた奴だな。まさか父親が総隊長なのか……⁉)


「別に。父さんとはしばらく話してないんだ」

質問してくる生徒に短く、そして冷たく答えた。

「この前の風船割りの時もすごく速かったよな。俺もお前に一瞬で割られてマジでビビったわ笑」

「それな。普通に身体能力が羨ましい!」


褒められた想決は、読んでいた本を閉じ俺の方を横目で見た。

「羨ましい?それより僕は教室の端でスマホを見ているヤツの方が羨ましいよ」

「端……アイツか。確か最後まで残っていた奴だよな」

俺は聞こえてないふりをしてスマホに視線を固定した。だが、自分のことを話しているとわかっているせいか全く画面の情報が頭に入って来ない。


「最後にコートの端の方で突っ立っていた彼を見て、捕食者から逃げ惑う獲物とばかり思っていた。けど彼は幾度も僕の攻撃を躱し、時間が来たから終わらせるように風船を割ったんだ。その余裕からは強者の風格というよりも、絶対に負けないという確信に裏付けられた油断にも見えたよ」


(神村姜椰……コイツは他の連中とは全く別の何かだ。明らかに特殊部隊では異質の存在。つくづく気味が悪い……!)


「まるで力を隠してる主人公みたいだな笑」

取り巻きの一人が笑いながら言う。

「声でかいって!」

耳にシャッターを下ろして何も聞こえなかったことにした。取り巻きたちの笑い声が一限目の開始のチャイムの音を濁らせていた。

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